私の絵画館59:アルトくんと菜の花

 

私の絵画館59:アルトくんと菜の花

 

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詩は、小さな頃からいつも身近な表現手段の一つでした。

そんないわゆる<文学少女>だった私は、教科書に載っていたヴェルレーヌの詩を暗記して口ずさんでいた頃がありました。その詩はむろん翻訳で、訳したのは堀口大學でしたが、七五調のあまりにもなめらかな口調には、外国の詩であることを忘れさせるほどの心地よさがありました。名訳といわれるゆえんだと思います。★ 続きは題をクリック ↑

翻訳というものが、直訳でも意訳でもなく、作者を残しつつ訳者の世界をも反映させる微妙な二者融合の賜物だと知ったのは、それこそずっと後になってからのことでした。

久しぶりに訳詩のことを思い出したのは、翻訳家として有名な堀口大學とフランスの女流画家マリー・ローランサンが、ある時期交流があったと知ったからでした。

第一次世界大戦の前後、二人はそれぞれの事情でスペインに行き、そこで出会いました。

堀口大學は当時スペインに滞在していた外交官の父の機転で、国境が封鎖される数日前にベルギーを出て、スペインに向かいました。

一方、ドイツ人と結婚してドイツ国籍となっていたローランサンはフランスに居ることができなくなり、スペインに逃れます。

年齢は彼女の方が上でしたが、二人は意気投合し、ある時期を共にすごしました。実際は若い堀口大學が、憧れのような感情を抱いていたという形だったようですが。

二人とも、私にとっては単に名前を知っていただけの人ではあるのですが、全く別の世界にいたと思っていた二人が突然結びついて、ちょっと意外な驚きでした。それが現代ならさほど珍しくはないでしょうが、第一次世界大戦などという歴史の彼方での出来事であり、場所もヨーロッパ。人の世の<縁>の不思議を、ふと想いました。

そして、今まで教科書でしか知らなかった堀口大學という人が、
いかめしいおじさんから少し身近な存在になりました。

絵のモデルは、ラブラドール・レトリーバーのアルトくんです。
東京在住でとても礼儀正しいおりこうさんです。以前家で暮らした三太と外見はとてもよく似ているのですが、天真爛漫すぎるおバカなところは、賢いアルトくんとは全くちがいます。

<お花畑のなかにいるアルトくんを>ということで、最初はアネモネ畑のなかのアルトくんを描きましたが。“お花畑なら菜の花でしょう”との飼い主さんのご希望で、改めて菜の花畑で描き直しました。

季節が関東よりもずいぶん早い宮崎で、終わりかけの菜の花をさがしたりとそれなりに大変でしたが、この絵のカードを見た若いお友だちが<菜の花の黄色が圧巻でした>と言って下さり、その大変さも少しむくわれた気がしました。

 

執筆年

2015年

収録・公開

「アルトくんと菜の花」(No. 76:2015年2月1日)

最終更新日: 2019年 1月 4日 11:20 PM   カテゴリー: , 私の絵画館, 絵画,
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