小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑨:「贈り物」

続モンド通信 30(2021年5月20日)

小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑨:「贈り物」(小島けい)

 

人の世は、一年前よりもさらに、先の見通せない状況になっていますが。季節は、人知れずきちんと少しずつ移っていて、山の黄緑が勢いを増し<山笑う>頃になりました。

そのような自然のなか、鳥たちはいつも通りの営みを続けています。

2年前、アトリエのベランダの庇(ひさし)に鳥が巣を作りました。その時のことを私は<巣立ちの後に>(「ナミブ砂漠」「続モンド通信8」2019年7月20日])という文章で、次のように書きました。

 

「この頃の私は、<子供たち>が巣立ってしまった寂しさを感じています。今どこで暮らしているのだろう?と空っぽになった場所を見ては、思ってしまします。

2,3ヶ月前だったでしょうか。アトリエのベランダで、しきりに鳥のなき声がするようになりました。窓の外を見ても姿は全く見えませんが、声だけは確かにするのです。

ところがそのうち、家の猫たちが朝ご飯の後、そそくさと2階に上がっていくことに気が付きました。そしてある程度の時間をすごすと<やれやれ、今日のご用事が終わりましたよ>という満足気な顔で階段を下りてくるのです。

2階で何をしているのだろうと見てみると、アトリエの窓の外を、網戸越しに食いいるように見ています。猫たちの後で私も一緒に外を見ていると、しばらくしてベランダのすぐ横に付けてあるBSの丸いアンテナに、一羽の鳥がバサッバサッと音をたてて飛んできました。口には細長い枯れ草をくわえています。そして、その位置から再び羽を広げてま上に飛び上がりました。

鳥は雀の3~4倍の大きさで、ほっそりとした姿です。初めて見る鳥でした。

草は巣作りに使うのでしょう。鳥は毎日何回も草をくわえて運んできました。その度に必ずアンテナに止まるので、猫たちは間近に見る実物の鳥に色めきだち、今にも網戸を破りそうな勢いです。

アンテナから次に一体どこに飛ぶのかしらんと、鳥が遠くへ出かけた後ベランダに出てみました。するとベランダの屋根の端の方に直径10cmほどの丸い穴が空いています。2・3年前新しいクーラーに替えた時、その穴の横にあらたに管を通したようで。不要となった以前の穴は、簡単には防いだはずですが。それがはがれ落ちてしまったのでしょう。

鳥はその穴から天井部分に入り、巣作りをしているらしく、枯れ草のはしが板のすき間から何ヶ所もはみ出して垂れていました。

それから毎日、猫たちと私は折をみては窓の外を観察しました。鳥はあいかわらず、外から帰ると必ず一度アンテナに止まり、まわりを確かめてから数10cm上の巣穴へ入りました。

そのうち天井あたりから幼いなき声がひんぱんに聞こえるようになり、親鳥の動きも俄然活発になりました。バッタのような虫をくわえて帰ってきては、すぐまた再び飛びたちます。

ある時、巣の中の声が異常にけたたましくなり、大騒ぎしているので見てみると、穴から追い出された1羽のスズメが、あわてて逃げ出していきました。不法侵入者を家族総出で追いはらったのでした。

そうこうしているある日、親鳥とそっくりな形の小さな鳥が、巣からおりてきてアンテナに止まり、次に向かいの家の屋根に飛んでいきました。

卵からヒナにかえった子供たちが、とうとう外へ飛べるようになったのです。私は嬉しくて、下絵用のノートにメモ書きを残しました。6月25日でした。

その直後、九州南部では恐ろしいほどの大雨となり、やむなくアトリエの窓にもシャッターをおろしました。

数日後大雨が一段落して、そおっとシャッターを開けましたが。その時、鳥たちはもういませんでした。雨が止むのと同時に、巣立ったようでした。

 

小鳥たちの巣立ちに少し寂しさを感じつつ、猫たちと私の特別な<今年の春>が終わりました。

もうすぐ、夏です。」

 

今回も、しばらく前から毎朝ベランダのあたりでしきりに鳥の鳴き声がしていました。猫たちが何か用事ありげに、2階のアトリエに通うところも一緒でした。

それでも、<まさかねえ・・・>と半信半疑だったのですが。先日机にむかっていると、後ろでバタバタと音がします。気づかれないようにそっと外をのぞいてみると、エサをくわえた親鳥が、やはりアンテナに一度止まり、そこから上の巣へと飛びました。2年前よりも小さく、モズを少し細くしたような姿でした。

種類は違うけれど<また鳥が来てくれた!>

気のめいるようなニュースが多いなか、ふあっと心のどこかが明かるくなりました。

このひそかな喜びは<同じ空間に、人間とはちがう生き物が、平穏に暮らしているよ>という鳥からの贈り物のような気がします。

きっとあとひと月もすれば、子供たちも飛び立ってゆくのでしょうが。それまでは今年も、私と猫の楽しみの日々が続きます。

最終更新日: 2021年 5月 21日 1:34 PM   カテゴリー: エセイ
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

Post a Comment