私の絵画館:「アフリカ―家路―」
「続モンド通信19」(2020年6月20日)
私の絵画館:「アフリカ―家路―」(小島けい)
この絵は、1992年に出版されたアレックス・ラ・グーマ著『まして束ねし縄なれば』の装画です。
私たちがジンバブエに向かったのは、その年の6月の終わり頃ですから、出発する前に描き終えて、出版社に送ったわけです。
この小説は、南アフリカが舞台ですが。実際にはどういうところなのか、私は全くわかりませんでした。そこで参考にしたのがBSで放送されたアンゴラのニュースです。その短かい映像のなかで一番印象に残ったのが、乾いた土埃りの道を黙々と歩く黒人の人たちの姿でした。
南アフリカではありませんが、アンゴラもアフリカ南部に位置しており、南アフリカの北側にあります。きっと同じような光景があるのではないか、と思いました。
当時の私の描き方は、今とは全く違います。短時間で一気に描きあげて,終わり!というきわめて大ざっぱなものです。<5m離れて見てみると、いい感じ>とよく言われました。
この絵は、その描き方の最たるものだと思います。ただ、いつもは注文の多い出版社の社長さんも編集者の方も、珍しく1回で気に入って下さり、OKがでました。
おかげで、私たちはハラレ滞在中に、日本から送られてきたこの本を受けとることが出来ました。
私が参考にしたのはアンゴラでしたが、実際にジンバブエに行ってみて、驚きました。ハラレのいろいろな場所で、これと同じような光景を目にしたからです。
白人はいつも車で移動して、決して外を歩いたりはしません。私たちは中古の自転車を買いましたが、それさえも高価なものです。そのため、黒人は働きに行く時も、買い出しに向かう時も歩くしかありません。
野原には、自然とその人々の通る道が幾すじも出来て、交差していました。
一瞬のイメージで描いた絵でしたが、それは日常のよくある風景で、黙々と、ひたすら歩いて家にむかうしかない<現実>そのものでした。
『まして束ねし縄なれば』
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