私の絵画館27:ロンくんと椿
絵のモデルは、大分県に住んでいたゴールデン・レトリーバーのロンくんです。
一昨年の個展の時、ふらりと入ってこられた年配の男の方とお話しました。
ほんのひと言ふた言お話しただけで、あっ、関西の方だ、とわかりました。
“わしは姫路におってなあ-。”
“私たちは明石に住んでいたんです。”
と、ひとしきり関西、それも極く狭い範囲の話で、もり上がりました。★ 続きは題をクリック ↑
その方が、入り口近くに飾ってあった四角い形の絵を指さして、
“あの大きさで、ロンを描いてくれへんか”とおっしゃいました。
それからしばらくは、
“もっと安うしときいな”
“いやいや、あの大きさではちょっと・・・・”
と、ひとしきり関西風のやりとりが続きました。
そのようなアホな会話を、いっしょに来ておられた奥様と息子さんは、少し離れたところで、他人事のようなちょっと冷ややかな態度で、見ておられました。
ロン君の絵は、予定より相当遅くなりましたが、やぶ椿、侘び助、玉之浦というご希望の三種の椿のなかで、ロン君が笑って座っている図柄で、出来上がりました。
そして2012年用のカレンダーの3月に入りました。(→「新作です2011/6/29:ロンくん」、→「小島けいのカレンダー『私の散歩道2011~犬・猫・ときどき馬~」、→「椿」もどうぞ。)
そして昨年九月の個展の時。連日の冷たい雨に、身も心も打ちのめされそうになっていたある日の午後、三人の方がお店の方に近付いてこられました。いつものようにプロフィールの葉書きをお渡ししようとすると、皆さんにこにこしておられます。えっ?この満面の笑みは何なのだ、と思っていると、私のいぶかしげな表情を一瞬、二瞬楽しんだ後、“三木です”と男の方が名のって下さいました。ロンくんの元飼い主さんでした。
私がお名前を思い出せなかったのもあたりまえと思えるほど、今年の皆さんの笑顔は、昨年からは想像もつかないものでした。ご本人はまだしも、奥様の笑顔は信じられないくらいです。
“ロンくんの絵、お気に召していただけましたか”
とお聞きすると、
“おお、もちろんや。あいつもごっつぃ気に入ってなあー。”
と奥様を指さしておっしゃいました。
奥様はというと、いっしょにこられたお友達に、どのハガキを選ぶかについて、先輩風にアレコレ世話をやいて下さっていました。お好きな椿の話など、楽しくお話させていただいた後、最後は皆さんと、かたい握手でお別れしました。
帰られた後、展示してあったカレンダーをふと見ると、
表紙ではなく3月のロン君が一番上にかわっていました。
執筆年
2012年
収録・公開
→「ロンくんと椿」(No. 43:2012年02月25日)