小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑬:「中秋の名月に」Moon(2021年9月20日)

続モンド通信34(2021年9月20日)

 

小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑬:「中秋の名月に」Moon

 

今年の<中秋の名月>は、8年ぶりの満月とかで、世の中は少し騒がしかったようですが。

私はそのお月さまを、大学のキャンパスのグランドで、草の上を歩きながら見ていました。

そうして、高原の美術館で個展をしていた時は、毎年九月のお月さまを、電柱一つない真っ暗い山の中の道を、散歩しながら見ていたなあ…と思い出しました。

 

九州芸術の杜(大分県飯田高原)

<九州芸術の杜>は、美しい高原の広い敷地のなかにある、素敵な空間です。ただ、ギャラリーも広かったため、毎年60枚以上の絵を運んでいました。

さらに、まわりには、夜開いているお店が全くなかったため、ギャラリーの2階に滞在する間の自分達の食事を、すべてあらかじめ準備して行きました。

それは、私にとって結構大変な労力でした。

<九州芸術の杜>が、駅からも人里からもずいぶん遠い場所に在る、と思い込んでしまったのには、訳があります。

個展のお話をいただいた年、私たちは事前に、社長さんと館長さんのお二人にご挨拶に伺いました。その時、電車を乗り継いだ後、湯布院の駅からは、タクシーに乗りました。

タクシーは、山の中の曲がりくねった道路を、右へ左へとカーブを切りながら、40分くらいもかかって、美術館に到着しました。

これほど遠い所なら帰りのタクシーを呼ぶのも大変だろうと、私たちはそのタクシーに待っていてもらい、帰りも同じ道を40分程<ドライブ>して、ようやく由布院駅にもどりました。

ところが、5年目の年。いつもは知り合いの方にお願いして、車で家から美術館まで運んでもらっていましたが、今回は電車で行ってみることにしました。そして、湯布院の駅からは、高原を一日に数本走っているバスに乗りました。

すると、“うそでしょ?!”というくらいの近さで、もよりのバス停に着いたのです。時間も10分かかりませんでした。

やまなみハイウェイバス停付近

私たちが初めて乗ったタクシーは、通常10分で着く道をあえて通らず、あきれるくらい遠まわりをしていたことに、この時初めて気付きました。

これほど湯布院が近いなら、ギャラリーを閉めた後、街へ降り、食事も買い出しも十分できる。そうすれば<パン、ご飯、おかずすべてを準備して。冷凍して。送る>というひどくしんどい作業を、五年間倒れそうになりながら、しなくて済んだのに…と悔やみましたが。もうはや過ぎてしまったことでした。

翌年から、体調、体力的な面を考え、私は個展の場所を、東京に移しました。けれど、五年間<九州芸術の杜>で個展をさせていただくことができたからこそ、今がある。心よりそう思います。

ほんとうに、ありがとうございました。



たまだけいこ:本(装画・挿画)一覧Essay List

 

たまだけいこ:本(装画・挿画)一覧Essay List

 
小島けい(たまだけいこ:装画・挿画の名前)の本(装画・挿画)一覧です。

横浜の門土社・門土社総合出版・Mondo Booksの表紙絵(装画)や、本文中の挿画の画像を集めました。

本紹介16 『さくら殺人事件』(1994/8/4)

本紹介27 『さざん・くろーす』(1996/5/22)

本紹介56 『ジェームズ・ディーンの『エデンの東』のようで』(2003/7/18)

上の本のように花も多いのですが、下の本のように様々な種類の表紙絵を描いています。本の題をクリックすれば、その本のページに飛ぶようにリンクしてあります。

本紹介8 『馬車道の女』(1991/11/16)

本紹介10 『まして束ねし縄なれば』(1992/10/16)

本紹介29 大石汎著『客夢』(1996/7/22)

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「小島けい絵のblog Forget Me notの本紹介」一覧

小島けい(たまだけいこ)

本(門土社/門土社総合出版/Mondo Books)・雑誌・新聞・ポスター 一覧

通し番号・発行日・作者・タイトル・種類/モデル(年代順)

 

<本>

1(1989/1/25)→山田はる子『心の花を咲かせたい』(装画/花菖蒲)

2(1989/4/20)→La Guma, A Walk in the Night (装画/南アフリカの街角)

3→八田誠二『手紙相談十二年』(挿画/人物イラスト)

4(1991/1/15)→飯島光孝『燃え落ちた軍艦旗』(装画・挿画/からすうり・柿)

5(1991/4/14)→La Guma, And a Threefold Cord (装画/アンゴラの風景)

6(1991/7/20)→岡本明正『樟の風影』(装画/樟・椿)

7(1991/9/8)→芹沢修『雑木林』(装画/風景、挿画/花菖蒲)

8(1991/11/16)→押川昌一『馬車道の女』(装画/風景・柿)

9(1992/4/22)→The Heart and Other Stories (装画/パリの街角)

10(1992/10/16)→ラ・グーマ『まして束ねし縄なれば』(装画/ナミビアの風景)

11(1992/11/24)→岡田真澄『認識の野をめぐる』(挿画/表紙絵のかたつむり)

12(1993/3/20)→上田進『琴線にふれる教育を求めて』(装画/花菖蒲)

13(1993/4/3)→飯島光孝『朝、はるかに』(装画/あけび)

14(1994/3/1)→高木豊平『ティアラを掘り出せ』(装画/水仙)

15(1994/6/24)→瀬戸洋『ああ!青春高校野球』(装画/グローブ)

16(1994/8/4)→遠藤康『さくら殺人事件』(装画/さくら)

17(1994/8/18)→宮崎薫『衿子』(装画/アネモネ)

18(1994/11/22)→ 村越一哲『落日の賦』(装画/トルコ桔梗)

19(1995/1/3)→押川昌一『汝が心告れ』(装画/農家とからすうり)

20(1995/3/10)→飯島光孝『一番美しく』(装画/柿)

21(1995/4/14)→平井眞一『教育に不易あり』(装画/子供たちと犬)

22(1995/6/16)→青芽会編『応用古文』(装画/貴族の絵)

23(1995/6/16)→青芽会編『漢文』(装画/山水画)

24(1995/6/16)→青芽会会編『基礎古文』(装画/貴族の絵)

25(1995/11/1)→山田哲夫『風濤の果て』(装画/漂流図)

26(1995/12/22)→TAMADA, Africa and its Descendants(挿画/肖像)

27(1996/5/22)→広野安人『さざん・くろーす』(装画/椿)

28(1996/5/22)→西谷加代子『月を密かに見下ろして』(装画/月見草)

29(1996/7/22)→大石汎『客夢』(装画/縄文の深い森)

30(1996/12/21)→越地としこ『いのち芽生えて』(装画/薔薇)

31(1996/12/21)→越地としこ『いのち芽生えて』(ハードカバー版)(装画/パリの街角)

32(1996/12/24)→遠藤勢津夫『真鶴の歴史を探る』(装画/真鶴の景色)

33(1997/3/30)→伊勢弘『心眼』(装画/薔薇と野生の桜草)

34(1997/3/30)→伊勢弘『心眼』(ハードカバー版)(装画/薔薇と野生の桜草)

35(1997/4/1)→正木邦彦『グッバイ、ネバーランド』(装画/つつじ)

36(1997/4/5)→田上二郎『神のいない三つの部屋』(装画/ポピー)

37(1997/4/5)→城麗子『夕映えの山を越えて』(装画/アルプスの風景)

38(1997/7/7)→坂本龍夫『クリスマスに還る』(装画/海岸とひまわり)

39(1997/12/24)→宮部勇武『燃えつきた青春』(装画/航空機とカサブランカ)

40(1998/4/22)→谷崎淳子ほか『劇作百花1』(装画/フリージア)

41(1998/6/12)→火星雅範『末っ子の詩』(装画/名前未詳の花)

42(1998/6/22)→谷崎淳子『星の降らない夜』(装画/くちなし)

43(1998/8/1)→伊藤隆弘『劇作百花2』(装画/のうぜんかずら)

44(1998/10/21)→伊藤隆弘『文の林にわけ入りし…』(装画/桔梗)

45(1998/10/22)→佐藤繁『鎌倉百景』(装画/風景・銀杏・紫陽花)

46(1998/12/22)→TAMADA , Africa and its Descendants 2(挿画/肖像)

47(1999/2/12)→長島世津子『パートナーシップ』(装画/シンピジウム)

48(2000/2/24)→平井眞一『随所に主宰とならん』(装画/柿)

49(2000/12/2)→村越一哲『幻の東京オリンピック』(装画/あけび)

50(2000/12/28)→坂本龍夫ほか『劇作百花3』(装画/カサブランカ)

51(2001/8/8)→飯島光孝『お空の中ほど』(装画・挿画/海岸の風景・扉絵の柿)

52(2002/4/24)→吉田恵美子『立ちこゆる文学』(装画/からすうり)

53(2002/7/5)→グギ『川をはさみて』(装画/深い森)

54(2003/4/4)→風見孝男『会津情念点描』(装画/デルフィニウム)

55(2003/6/15)→火星雅範『ある靴職人の話』(装画・挿画/靴・いろいろ)

56(2003/7/18)→佐藤喜志夫『「エデンの東」のようで』(装画/くちなし)

57(2003/8/12)→小林照明『ぼくの夏の種』(装画/つりがね草)

58(2004/12/25)→村越一哲『三方原』(装画/からすうり)

59(2005/4/24)→三橋美千子『葵桜誕生秘話』(扉絵挿画/河津桜)



私の絵画館:浜辺Beach(2021年8月20日)

続モンド通信33(2021/8/20)

 

私の絵画館:浜辺Beach

犬(ダーウィンくん)とハイビスカス

 赤いハイビスカスの咲きほこる浜辺を、のんびり散歩しているのはダーウィンくんです。

かわいいビーグル犬が<ダーウィン>?!と一瞬思いましたが。

飼い主さんがこの子と出会い、名前を考えている時、たまたまダーウィンに関する本を読んでおられたとか。

もちろん会ったことはなくても、きっと気難しい人物だろうと想像していたところ。実は大の犬好きで、大きな屋敷には何匹もの犬が飼われていたと知り、とても親近感がわいたそうです。

というわけで、小さい子犬は<ダーウィン>というとてつもなく大きな名前を背負うことになりました。

通称<ダーくん>は、そんなことにはおかまいなしで、毎日浜辺の散歩をゆっくり楽しんでいます。

カレンダー「私の散歩道2021~犬・猫ときどき馬~」8月

<赤いハイビスカス>の花では、以前オウムのクーちゃんとの絵も描かせていただきました。

鸚鵡(クーちゃん)とハイビスカス

カレンダー「私の散歩道2013~犬・猫ときどき馬~」8月

あれから何年もすぎ、クーちゃんは確か20歳を何年かすぎたとお聞きしましたが、今も元気に横浜で暮らしています。



小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑫:「秋日和」Lycoris radiata(2021年8月20日)

続モンド通信33(2021年8月20日)

 

小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑫:「秋日和」Lycoris radiata

私が住んでいる<南国>では、まだ暑くるしい夏の気配が濃厚ですが。ふと見上げれば、いつものように、秋は空から静かに始まっています。

そう言えば、住宅地のすぐ横の畑では、しばらく前から白い曼殊沙華が、咲いていました。

<曼殊沙華は赤>との思いが強い私は、白色の花を見ても、すぐ“秋だ!”とは思いませんでしたが。

曼殊沙華

 ちょうど20年前の秋。思いたって臼杵の石仏を訪れました。スケッチをして、写真をとり、それが後に「秋日和―臼杵の石仏―」という一枚の絵になりました。

「秋日和―臼杵の石仏―」

額入り「秋日和」

 石仏だけでは少し寂しく、途中の山道や田んぼで見かけた赤い曼殊沙華を数本描き入れました。おまけに(?!)その時はお留守番だった犬の三太(ラブラドール・レトリーバー)にも、お昼寝で小さく登場してもらいました。

三太は毎月のシャンプーが大好きでした。<お迎え>がくると大はしゃぎで、自分から車に飛びのりました。そこで、私たちがでかける一泊二日の間、いつもお世話になるその方に<お預け>しました。けれど、ブリーダーをされているそのお家では、みんなが共通で使う器から三太は水を飲まないこと。オシッコやウンチも、極力我慢してしまうことを、後で聞きました。

数時間で帰ることのできるシャンプーは大好きでも、<お泊り>ではひどく気を遣ってしまう三太の性格を考えると、もう旅行に行くことはできなくなりました。

遠出をしなくなって六年が過ぎた時。大分県飯田高原の「九州芸術の杜」の社長さんから、<ギャラリー夢>で個展をしませんか、とお話をいただきました。

高原の個展では、毎年数日間泊まりがけで出かけましたが、その時には必ず、東京から娘に帰ってもらうことに決めていました。

九州芸術の杜(大分県飯田高原)

GALLERY・夢

お互いに大好きな<娘と三太>は、水入らずで、大いに私たちの留守を楽しんだというわけです。短かすぎた三太の人生ですが、その時は、普段以上に思い切り甘えて暴れて、限りなく嬉しい時間だったと思います。曼殊沙華の花から、三太が過ごした<至福の秋の日々>を、ふと思い出しました。

赤い曼殊沙華がちょっと入った絵が他にもあります。母馬(キャンディー)と子馬(マックス)の絵です。

<馬の親子(キャンディーとマックス)>

額入り「馬の親子」



小島けい2021年個展案内・開始・終了・ご報告2021 Water Painting Exhibition

 小島けい2021年個展案内2021 Water Painting Exhibition

 

犬(ゆうちゃん)とオーロラ

 

まさに、混乱のまっただ中という今年の夏ですが。皆様、犬ちゃん、猫ちゃんたちも、いかがおすごしでしょうか。

私も<暑すぎる>夏を、猫たちとともに、何とか生きております。

大変遅くなりましたが、今年の個展の日程が決まりましたので、お知らせ致します。

 

場所:世田谷区祖師谷「ルーマー」→Cafe & Gallery Roomer

月日:11月12日(金)、13日(土)、14日(日)の三日間です。

 

昨年は個展をやむなく中止しましたが。今年は何とかして皆様に絵を見ていただきたい!という思いから、<ルーマー>がお店を開いておられる金・土・日を使わせていただくことになりました。

ただ、私自身は<自宅待機>という形で、今年は絵のみの移動にさせていただきました。

昨年一年間の、想いのすべてを注ぎ込んだ絵たちを、もし足をお運びいただけるようでしたら、ご覧下さいませ。

なお、2022年のカレンダー用の絵は、現在進行中です。「絵とカレンダー」の個展となりますが。大切な方、大切な動物たちの絵画のご注文は、随時受け付けておりますので、ご遠慮なくお申しつけください。

暑さとコロナと、まだまだ困難な日々が続きます。

皆様、どうかご自愛下さいませ。             かしこ

 

● 小島けい2021年個展開始

11月11日(木)「小島けい2021年個展」を開始しました。

一応 落ちついているとはいえ、このような状況のなか、個展をすることができますのは、オーナーの映子さんをはじめ、皆様のご協力のおかげと存じます。ありがとうございます。
今年は、宮崎からの移動は”絵”のみとさせていただき、私は自宅待機という形をとらせていただきますが。
絵は新作を中心に展示致しておりますので、<カレンダー2022年>のカードとあわせて、お楽しみ下さいませ。

小島けい

● 小島けい2021年個展終了

本日11月14日(日)2021年の個展が終了しました

● <ご報告>

ご報告が大変遅くなりましたが。

<小島けい 個展2021>は、11月12日~11月14日に開催させていただき、無事終了致しました。

私自身は自宅待機という形でしたが、<ルーマー>のオーナー、映子様をはじめとして、皆様のご協力のおかげで、たくさんの方に(実物の)”絵”を見ていただくことができました。ほんとうに、ありがとうございました。

いつも見に来て下さる皆様に加えて、何年もおたよりだけでやりとりしていた方が、今年はご都合があい足を運んで下さったり。初めていらして下さった方たちもおられました。個展は初めてという方が、<絵にも建物の雰囲気にも癒されました>とメールをくださいました。そして、カードではすでにご存じでも<絵のモデルのかわいい名前や額装を楽しめるのは、原画展ならでは・・・・>ともおっしゃって下さいました。

このような先の見えない日々のなかで、準備もそれなりに大変でしたが。今年、がんばって個展をしてよかった!とほっとしております。

毎回いらして下さる皆様に、そして初めてご来場下さいました方々にも、心より御礼申しあげます。

 

絵を描いていれば、あたり前のことですが。

私も一年の大半は。限られた人たち以外とはほとんど接することもなく、毎日ひたすら絵を描いてすごしています。それだけに13枚の絵を描きあげて、印刷会社にカレンダーの画像を送った後の、個展の前後は、私の一年のなかで唯一、たくさんの皆様とお手紙やメールでやりとりのできる<嬉しい季節>です。

現在も、絵やカレンダーの発送に追われておりますが。すでに、来年2022年11月11日(金)~13日(日)に、個展の予約を致しました。

来年こそは、皆様とお会いできますように。そして、それができる穏やかな世の中でありますように、願っております。

「小島けい2021年個展案内・開始・終了」



私の絵画館:うさぎのしょうちゃんとチョビちゃん(2021年7月20日)

続モンド通信32(2021年7月20日)

私の絵画館:うさぎのしょうちゃんとチョビちゃん

 以前、大分県の「九州芸術の杜」で個展をしていた時、“私の店で、絵やポストカードを販売しませんか?”と声をかけていただきました。「夢色工房」というお店を開いておられる方でした。

それから長年、大変お世話になりっぱなしでしたが。数年前、お店を閉じると聞き、お礼に何か絵を描かせて下さいとお話したところ、それでは我が家にいたうさぎたちを、とお写真が届きました。

ただ、このうさぎの絵は、すぐ描くことができませんでした。理由は二つあります。一つめは、私がこれまでうさぎとは全く無縁ですごしてきた、ということです。犬・猫・馬たちは、一緒に暮らしたり、身近に接したりしてきましたし、絵も二百枚以上描いてきましたので、たとえ会ったことのない子たちでも、お写真と向きあうことで<友だち>になれました。そうして、描き始めてきました。けれどま近で見たり、触ったりしたことのないうさぎは、どう近づき<友だち>になればよいのか・・・・わかりませんでした。

さらに、もう一つ。数年前から娘さんが絵の才能を開花され、躍動感あふれる力強い絵を描いておられました。

娘さんとは全くちがう描き方の私が、ご家族の大切なうさぎさんをほんとうに描いていいのだろうか?と、少し迷ったりもしていました。

けれど、ようやく昨年完成させて、とりあえず絵のカードをお送りすると、とても喜んで下さり、ご丁寧なお手紙が返ってきました。

そこには、ご家族が非常に大変だった時期、どれほどうさぎたちの存在に助けられ、励まされてきたのかが語られていました。私などが思いもしなかったほど、その存在は大きく、心のささえであったのだと、初めて知りました。

絵の中の<しょうちゃん>と<チョビちゃん>に改めて、“あなたたち、がんばったねえ・・・・”とほめてあげたいくらいです。

ちなみに<しょうちゃん>は、娘さんが小学校からもらってきてお母さんにもなったベージュと白のうさぎです。<チョビちゃん>は、長く体調がよくなかった娘さんを元気づけるために、ご家族が買ってあげた黒いうさぎです。

しょうちゃんとチョビちゃん

カレンダー「私の散歩道2021~犬・猫ときどき馬~」7月

そういえば以前一度だけ、猫のぎんちゃんと仲よく暮らしているうさぎさんを、飼い主さんご希望の三色スミレと一緒に、描いたことがありました。

ぎん君とモモちゃんと三色菫

カレンダー「私の散歩道2014~犬・猫ときどき馬~」表紙



小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑪:「『のらいぬ』の世界へ」

続モンド通信32(2021/7/20)

小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑪:「のらいぬ」の世界へ

今、私の手元には、5冊の絵本が置いてあります。いずれも、長年放っていた絵本の棚から、再生した本たちです。

それぞれに選んだ理由は違いますが、大きな共通点が一つあります。それは、古典的な<名作>ではない、ということです。

どの本を<名作>というのかは、よくわかりませんが。

時代をこえて読み続けられてきた絵本といえば、私はすぐに「ひさの星」「ごんぎつね」「なめとこ山の熊」などを思い浮かべます。

それらのお話は、確かに心打ついいお話ですし、絵もすばらしいと思うのですが、私はあえてそれらの<名作>を選びませんでした。

<名作>といわれるお話には、いつも深い哀しみがこめられているからです。

日本のお話ではありませんが、「フランダースの犬」なども、子供たちが小さい頃よく読みましたが。いつも途中から涙があふれて、最後までスムーズに読むことができませんでした。感情移入しすぎる私は、深すぎる哀しみが苦手なのです。

そこで、少し寂しさがあるとしても、たちなおれないほどの哀しみではないお話を、身近に置く本として選びました。

この5冊のなかで、私がひそかに近付きたいなあ・・・と願っているのは「のらいぬ」(谷内こうた絵 蔵冨千鶴子文)です。

その本は、左のページに絵、右のページに言葉(途中から反対になります)、でできていますが、絵も文も、これ以上簡略にはできないと思われるほど、単純化されています。その絵を、言葉で説明するのは難しすぎますが。

例えば1ページめは<暑そうな砂山に少しの草、上の方に空、砂山の向こうにごく一部見えている海、そして、ひどく暑そうに歩いているのらいぬ>です。そして言葉は<あついひ>だけです。

たくさん描かないのに、想いが見る人にきちんと伝わる。

見事だなあ・・・と思います。

主役の犬も、こげ茶色一色ですが。

少年と出会えて、一緒に燈台まで走り、燈台から

海に飛び込み、また一人になって。

 

でも<あついひ すなやまに みつけた ともだち>

<いつか きっと あえる>

と暑い砂山を再び歩く<のらいぬ>は、少年と出会う前と

首のうなだれ方が微妙に違っているのです。

ひとすじの希望があるから、だと思います。

 

できる限り描かない絵で、たくさんのお話を伝えることができたら・・・・と、夢見ている私です。

「のらいぬ」表紙



私の絵画館:子猫と山桃(2021年6月20日)

続モンド通信31(2021/6/20)

 

私の絵画館:子猫と山桃

6月は山桃が実のる季節です。赤くてかわいいその実には、やはりかわいい子猫が似合いますが。

絵① No. 7 <子猫と山桃>

絵② カレンダー「私の散歩道2021~犬・猫ときどき馬~」6月

以前、馬たちとも一緒に描きました。白馬のお母さん、チェックと、生まれて間もないスカイです。

その絵で、2008年の個展案内を作りました。

絵④ 2008年個展用ポスター<山桃と馬(チェックとスカイ)>

 九州芸術の杜(大分県)で個展をしている時、その絵をとても気に入って下さった方がおられました。そして購入されました。

その後、私自身も好きだったその絵をもう一度描きたくて、同じ構図で描きましたが。一枚目よりは、背景の紫が明かるい色に仕上がりました。

絵③ <チェックとスカイ>

絵⑤ カレンダー「私の散歩道2017~犬・猫ときどき馬~」7月(山桃の樹の下で)



私の絵画館:アイリッシュ・セッター(ローラ)とマーガレット(2021年5月20日)

続モンド通信 30(2021年5月20日)

アイリッシュ・セッター(ローラ)とマーガレット(小島けい)

 私が乗馬で通う牧場の犬たちは、代々<アイリッシュ・セッター>という犬種です。賢くて人なつっこく、走るのが大好きな犬たちです、

通い始めて間もない頃、レイチェルという犬が子供を産みました。全部で何匹だったか、6~7匹もいたでしょうか。レイチェルは一生懸命にお乳をあげましたが、とても追いつきません。

すると、いつも横にいるお婆ちゃんにあたるルーシーのお乳が、突然出始めました。それからは毎日、交替で子供たちにお乳を飲ませる日々となりました。

そんなことが実際に起きるのだ!?と、生き物の不思議にびっくりしたのを覚えています。

絵①「レイチェルと子供たち」

 お婆ちゃんのルーシーは、それから長く生きましたが、何年か前に静かに息をひきとりました。

オーナーのメグさんに、これでルーシーを描いてほしいと渡された写真は、目を閉じて寝ているルーシーに夕日が射し、毛が黄金色に輝いていました。

その毛の色が描きたくて、少し濃い目の紙を使いました。花は木立ちダリアを選びましたが。カレンダーのこの絵を見たある方が<この世ではないような>と言われました。

<ルーシーと木立ちダリア>

カレンダー「私の散歩道2018~犬・猫ときどき馬~」11月

 意識したわけではありませんが、ルーシーが天国で安らかに眠っていてくれたら……そう見えてもいいかなあ、と思いました。

いつのまにか年を重ねたお母さんのレイチェルも、ゆったり座っていることが多くなり、次はレイチェルとマーガレットを描きました。牧場にいる猫たち<ジェリー>(上)と<ジャガー>(横)にも登場してもらいました。

<レイチェルとマーガレット>

カレンダー「私の散歩道2015~犬・猫ときどき馬~」表紙絵

 牧場の下には日豊本線が通っています。

夕方に解き放たれた犬たちは、大喜びで牧場内を走り回りますが、時には雑木をわけ入り線路まで行ってしまうことがあります。

ずっと牧場で暮らしている犬たちはそのあたりのことがわかっているのでしょうが。やってきて間もないシェルターは、若くて元気がありすぎたため、ある日、電車にはねられて亡くなってしまいました。

<シェルターとログハウス> No. 54

カレンダー「私の散歩道2018~犬・猫ときどき馬~」11月

 このことがあってから、もう繰り返さないようにと、広馬場の少し上に、がけをけずって細長いドッグランが作られました。今では、みんないつでも自由に走り回っています。

<シェルター>では「モルディブの海」という絵も描きました。

<モルディブの海>

カレンダー「私の散歩道2019~犬・猫ときどき馬~」8月

 この絵を見たメグさんは、「シェルターを思い切り走らせてあげたくて。たった一度、シェルターだけを連れて海に行ったことがありました。その時のことを思い出します。」と静かに話されました。

シェルターが旅立った後にも、牧場では子犬たちが産まれました。何匹かいるなかで、牧場に残ったのがエリーとメイです。

幼なくて可愛いい二匹を、ラベンダー畑と一緒に描きました。

<エリーとメイとラベンダー畑>

カレンダー「私の散歩道2016~犬・猫ときどき馬~」表紙絵

 そしてこの絵は、レイチェルの子供の<ローラ>。2年前に亡くなった彼女を、オーナーがお好きなマーガレットと描きました。後ろは、牧場に何頭もいる、小さな種類の山羊です。産まれて間もないおぼつかない足どりで、ぴょんぴょん跳ねる子山羊たちです。

<ローラとマーガレット>

カレンダー「私の散歩道2021~犬・猫ときどき馬~」4月



小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑨:「贈り物」

続モンド通信 30(2021年5月20日)

小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑨:「贈り物」(小島けい)

 

人の世は、一年前よりもさらに、先の見通せない状況になっていますが。季節は、人知れずきちんと少しずつ移っていて、山の黄緑が勢いを増し<山笑う>頃になりました。

そのような自然のなか、鳥たちはいつも通りの営みを続けています。

2年前、アトリエのベランダの庇(ひさし)に鳥が巣を作りました。その時のことを私は<巣立ちの後に>(「ナミブ砂漠」「続モンド通信8」2019年7月20日])という文章で、次のように書きました。

 

「この頃の私は、<子供たち>が巣立ってしまった寂しさを感じています。今どこで暮らしているのだろう?と空っぽになった場所を見ては、思ってしまします。

2,3ヶ月前だったでしょうか。アトリエのベランダで、しきりに鳥のなき声がするようになりました。窓の外を見ても姿は全く見えませんが、声だけは確かにするのです。

ところがそのうち、家の猫たちが朝ご飯の後、そそくさと2階に上がっていくことに気が付きました。そしてある程度の時間をすごすと<やれやれ、今日のご用事が終わりましたよ>という満足気な顔で階段を下りてくるのです。

2階で何をしているのだろうと見てみると、アトリエの窓の外を、網戸越しに食いいるように見ています。猫たちの後で私も一緒に外を見ていると、しばらくしてベランダのすぐ横に付けてあるBSの丸いアンテナに、一羽の鳥がバサッバサッと音をたてて飛んできました。口には細長い枯れ草をくわえています。そして、その位置から再び羽を広げてま上に飛び上がりました。

鳥は雀の3~4倍の大きさで、ほっそりとした姿です。初めて見る鳥でした。

草は巣作りに使うのでしょう。鳥は毎日何回も草をくわえて運んできました。その度に必ずアンテナに止まるので、猫たちは間近に見る実物の鳥に色めきだち、今にも網戸を破りそうな勢いです。

アンテナから次に一体どこに飛ぶのかしらんと、鳥が遠くへ出かけた後ベランダに出てみました。するとベランダの屋根の端の方に直径10cmほどの丸い穴が空いています。2・3年前新しいクーラーに替えた時、その穴の横にあらたに管を通したようで。不要となった以前の穴は、簡単には防いだはずですが。それがはがれ落ちてしまったのでしょう。

鳥はその穴から天井部分に入り、巣作りをしているらしく、枯れ草のはしが板のすき間から何ヶ所もはみ出して垂れていました。

それから毎日、猫たちと私は折をみては窓の外を観察しました。鳥はあいかわらず、外から帰ると必ず一度アンテナに止まり、まわりを確かめてから数10cm上の巣穴へ入りました。

そのうち天井あたりから幼いなき声がひんぱんに聞こえるようになり、親鳥の動きも俄然活発になりました。バッタのような虫をくわえて帰ってきては、すぐまた再び飛びたちます。

ある時、巣の中の声が異常にけたたましくなり、大騒ぎしているので見てみると、穴から追い出された1羽のスズメが、あわてて逃げ出していきました。不法侵入者を家族総出で追いはらったのでした。

そうこうしているある日、親鳥とそっくりな形の小さな鳥が、巣からおりてきてアンテナに止まり、次に向かいの家の屋根に飛んでいきました。

卵からヒナにかえった子供たちが、とうとう外へ飛べるようになったのです。私は嬉しくて、下絵用のノートにメモ書きを残しました。6月25日でした。

その直後、九州南部では恐ろしいほどの大雨となり、やむなくアトリエの窓にもシャッターをおろしました。

数日後大雨が一段落して、そおっとシャッターを開けましたが。その時、鳥たちはもういませんでした。雨が止むのと同時に、巣立ったようでした。

 

小鳥たちの巣立ちに少し寂しさを感じつつ、猫たちと私の特別な<今年の春>が終わりました。

もうすぐ、夏です。」

 

今回も、しばらく前から毎朝ベランダのあたりでしきりに鳥の鳴き声がしていました。猫たちが何か用事ありげに、2階のアトリエに通うところも一緒でした。

それでも、<まさかねえ・・・>と半信半疑だったのですが。先日机にむかっていると、後ろでバタバタと音がします。気づかれないようにそっと外をのぞいてみると、エサをくわえた親鳥が、やはりアンテナに一度止まり、そこから上の巣へと飛びました。2年前よりも小さく、モズを少し細くしたような姿でした。

種類は違うけれど<また鳥が来てくれた!>

気のめいるようなニュースが多いなか、ふあっと心のどこかが明かるくなりました。

このひそかな喜びは<同じ空間に、人間とはちがう生き物が、平穏に暮らしているよ>という鳥からの贈り物のような気がします。

きっとあとひと月もすれば、子供たちも飛び立ってゆくのでしょうが。それまでは今年も、私と猫の楽しみの日々が続きます。