私の絵画館13:ひなちゃんと山茶花
私の絵画館13:ひなちゃんと山茶花
その朝、十月の軽井沢に人影はなく、別荘の点在するあたりは、静まりかえっていました。
一面の霧のなか、小径を散策していた私たちに、遠く馬の蹄の音が聞こえてきました。
足音は確実に近付いてきており、霧のむこうにその距離を測ろうとした瞬間、五、六メートル先に突如として白馬があらわれました。馬には、まっ赤な乗馬服を着た若い女性が乗っていました。★ 続きは題をクリック ↑
深い霧のなかから出現した馬と女性のあまりの美しさに、私たちは声を失い、無意識に道を譲り、ぼんやり見上げるしかありませんでした。
その人は馬上から静かな会釈を残し、何事もなかったかのように通りすぎてゆきました。
再び、馬と女性が霧のなかに消えてゆくまで、私たちは茫然と立ちつくし、見送りました。
もうはや四十年以上も前のことですが、あの美しい一枚の絵のような情景は、今も時折り鮮烈によみがえることがあります。
私を馬にむかわせた原点のような出来事はいくつかありますが、最も凝縮された一瞬ではなかったか、と思ったり致します。
そして今、馬・犬・猫ときどき山羊たちが、しあわせそうに暮らす小さな牧場に通い始めて、もうすぐ七年になります。
その牧場で今年の春生まれたのが「ひなちゃん」です。生まれた翌日の、まだ毛がほやほやとしているひなちゃんを描いてみました。
執筆年
2011年
収録・公開
→「ひなちゃんと山茶花」(No. 29:2011年1月1日)