小島けいのジンバブエ日記13回目:「パリ編」

「続モンド通信20」(2020年7月20日)

小島けいのジンバブエ日記13回目:「パリ編」(小島けい)

 

ハラレ最後の夜。空港の殺気立った大混雑のなかから、ようやくパリ行きの飛行機に乗り込むことができた時は<アフリカから何とか抜け出せた!>という思いに尽きました。

空港で飛行機に乗る。ただそれだけのはずでしたが。その場所が<アフリカ>だったということなのでしょう。

慣れない土地で少しずつたまってきていた疲れに、最後の一撃のような空港での大混乱で、私たちは疲れ果てドロのように眠りました。

 

私にとっては三度目のパリでしたが、初めて飛行機に酔い、同じく気分が悪くなった息子と私は重い足どりで、相方と娘は元気にシャルル・ド・ゴール空港に降り立ちました。

ロンドンでは、南アフリカの作家アレックス・ラ・グーマの奥さんのブランシさんにお会いしましたが。パリでは、ソルボンヌ大学でアメリカ文学を研究しておられるファーブルさんにお会いします。

宿は、ファーブルさんが素敵な屋根裏部屋を予約して下さいました。建物の最上階に最後はハシゴを使って登ると、広い空間が広がっていました。ベッドは手前と奥の二カ所にあり、空にむかって斜めになった窓を開けると、パリの屋根屋根が目の前に重なっています。

小島けい画(奥の扉は壁に描かれた絵です!)

 

いかにもパリらしい<ワンルーム>に大喜びしましたが。まもなく由緒ある古い建物の不便さに気付くことになりました。

最上階なので水圧が弱く、水もお湯もチョロチョロしかでません。バスタブのお湯も一杯になるまで長―――い時間がかかります。また10月初めのパリはすでに寒くなっていましたが、暖房も思うように使えませんでした。

とても魅力的な部屋で、普通の時ならきっとその不便さも許容できたと思いますが、当時の私たちにはその余裕がありませんでした。

2~3日後、パリらしさよりも快適さを選び、この上なく心地よくすごせる<モン・タ・ボー>というホテルに宿を移しました。

湯船にいっぱいお湯を入れ、シャボンの泡に包まれている子供たちの笑顔が、どれほどしあわせそうに見えたことか。

大学用テキストの装画に使ったこの時のパリのスケッチ

少し休んだ後、ファーブルさんのお宅に伺いました。やはり古い建物の中の一軒で、1回が玄関とロビー、2階が広いリビングとキッチン、3階が書斎と寝室でした。奥さんのジュヌビエーブさんも大学の先生で、忙しくしておられました。

私たちはご挨拶の後お茶をいただきましたが、ファーブルさんはテーブルに置いてあった小さなリンゴを薦めて下さいました。それは<別荘で一昨日摘んできたりんご>ということでした。

パリは古くからの街並みを大切にしているため。古い建物を壊して高層ビルを建てたりはしません。そこで、ある程度余裕のある人たちは、ふだんは街なかですごし、週末は広い庭のある田舎の別荘でのんびりすごすという生活をされているようでした。

お茶の後、ファーブルさんと私たちはレストランで食事をしました。まだ飛行機酔いが収まっていない息子に、彼は心配して<そんな時はコーラが一番いいんだよ>と勧めてくれました。私は内心<ほんとかなあ・・・?>と思いましたが、効果があったかどうかは、息子に聞き忘れました。

もう何十年も昔のことですので、どんなお話をしたのかは忘れてしまいましたが、食器の音や人々の話し声のする暖かくてにぎやかなレストランの雰囲気だけはぼんやりと記憶に残っています。

食事の後は、ソルボンヌ大学を案内して下さいました。あちこちの建物を回り、最後には授業中の大きな教室にもずんずん入って行かれました。私たちが少しためらっていると<気にしなくていいからおいで>と呼ばれます。いいのかなあ?と思いながらもついていったのですが。今から思えば、突然見知らぬ東洋人の家族が入ってきて、きっと学生さんたちは<何だ、これは?>とびっくりされたことでしょう。

 

すでに秋の気配のするパリは、肌寒い日々でした。寒さに弱い子供たちの体が心配で、残りの数日はあまり無理をせず、小さな美術感をいくつかめぐったり、少し買い物をしたりしてすごしました。

毎朝焼きたてのフランスパンを買いに行くお店で、店員のかわいいパリジェンヌが、おつりを渡す時、相方に笑顔でウィンクしてくれた!と子供たちが大喜びしたり・・・。

そんな何げないパリでの数日が、アフリカでの生活の疲れを、知らないうちに少し軽くしてくれたような気がしました。

本の装画に使ったスケッチ

最終更新日: 2020年 7月 20日 7:35 午後   カテゴリー: ジンバブエ
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