小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑪:「『のらいぬ』の世界へ」
続モンド通信32(2021/7/20)
小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑪:「のらいぬ」の世界へ
今、私の手元には、5冊の絵本が置いてあります。いずれも、長年放っていた絵本の棚から、再生した本たちです。
それぞれに選んだ理由は違いますが、大きな共通点が一つあります。それは、古典的な<名作>ではない、ということです。
どの本を<名作>というのかは、よくわかりませんが。
時代をこえて読み続けられてきた絵本といえば、私はすぐに「ひさの星」「ごんぎつね」「なめとこ山の熊」などを思い浮かべます。
それらのお話は、確かに心打ついいお話ですし、絵もすばらしいと思うのですが、私はあえてそれらの<名作>を選びませんでした。
<名作>といわれるお話には、いつも深い哀しみがこめられているからです。
日本のお話ではありませんが、「フランダースの犬」なども、子供たちが小さい頃よく読みましたが。いつも途中から涙があふれて、最後までスムーズに読むことができませんでした。感情移入しすぎる私は、深すぎる哀しみが苦手なのです。
そこで、少し寂しさがあるとしても、たちなおれないほどの哀しみではないお話を、身近に置く本として選びました。
この5冊のなかで、私がひそかに近付きたいなあ・・・と願っているのは「のらいぬ」(谷内こうた絵 蔵冨千鶴子文)です。
その本は、左のページに絵、右のページに言葉(途中から反対になります)、でできていますが、絵も文も、これ以上簡略にはできないと思われるほど、単純化されています。その絵を、言葉で説明するのは難しすぎますが。
例えば1ページめは<暑そうな砂山に少しの草、上の方に空、砂山の向こうにごく一部見えている海、そして、ひどく暑そうに歩いているのらいぬ>です。そして言葉は<あついひ>だけです。
たくさん描かないのに、想いが見る人にきちんと伝わる。
見事だなあ・・・と思います。
主役の犬も、こげ茶色一色ですが。
少年と出会えて、一緒に燈台まで走り、燈台から
海に飛び込み、また一人になって。
でも<あついひ すなやまに みつけた ともだち>
<いつか きっと あえる>
と暑い砂山を再び歩く<のらいぬ>は、少年と出会う前と
首のうなだれ方が微妙に違っているのです。
ひとすじの希望があるから、だと思います。
できる限り描かない絵で、たくさんのお話を伝えることができたら・・・・と、夢見ている私です。
「のらいぬ」表紙
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