小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑬:「中秋の名月に」Moon(2021年9月20日)
続モンド通信34(2021年9月20日)
小島けいのエセイ~犬・猫・ときどき馬~⑬:「中秋の名月に」Moon
今年の<中秋の名月>は、8年ぶりの満月とかで、世の中は少し騒がしかったようですが。
私はそのお月さまを、大学のキャンパスのグランドで、草の上を歩きながら見ていました。
そうして、高原の美術館で個展をしていた時は、毎年九月のお月さまを、電柱一つない真っ暗い山の中の道を、散歩しながら見ていたなあ…と思い出しました。
→九州芸術の杜(大分県飯田高原)
<九州芸術の杜>は、美しい高原の広い敷地のなかにある、素敵な空間です。ただ、ギャラリーも広かったため、毎年60枚以上の絵を運んでいました。
さらに、まわりには、夜開いているお店が全くなかったため、ギャラリーの2階に滞在する間の自分達の食事を、すべてあらかじめ準備して行きました。
それは、私にとって結構大変な労力でした。
<九州芸術の杜>が、駅からも人里からもずいぶん遠い場所に在る、と思い込んでしまったのには、訳があります。
個展のお話をいただいた年、私たちは事前に、社長さんと館長さんのお二人にご挨拶に伺いました。その時、電車を乗り継いだ後、湯布院の駅からは、タクシーに乗りました。
タクシーは、山の中の曲がりくねった道路を、右へ左へとカーブを切りながら、40分くらいもかかって、美術館に到着しました。
これほど遠い所なら帰りのタクシーを呼ぶのも大変だろうと、私たちはそのタクシーに待っていてもらい、帰りも同じ道を40分程<ドライブ>して、ようやく由布院駅にもどりました。
ところが、5年目の年。いつもは知り合いの方にお願いして、車で家から美術館まで運んでもらっていましたが、今回は電車で行ってみることにしました。そして、湯布院の駅からは、高原を一日に数本走っているバスに乗りました。
すると、“うそでしょ?!”というくらいの近さで、もよりのバス停に着いたのです。時間も10分かかりませんでした。
やまなみハイウェイバス停付近
私たちが初めて乗ったタクシーは、通常10分で着く道をあえて通らず、あきれるくらい遠まわりをしていたことに、この時初めて気付きました。
これほど湯布院が近いなら、ギャラリーを閉めた後、街へ降り、食事も買い出しも十分できる。そうすれば、<パン、ご飯、おかずすべてを準備して。冷凍して。送る>というひどくしんどい作業を、五年間倒れそうになりながら、しなくて済んだのに…と悔やみましたが。もうはや過ぎてしまったことでした。
翌年から、体調、体力的な面を考え、私は個展の場所を、東京に移しました。けれど、五年間<九州芸術の杜>で個展をさせていただくことができたからこそ、今がある。心よりそう思います。
ほんとうに、ありがとうございました。
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