私の絵画館45:「山羊のみた夢 」3
ある日キャンパスに散歩に行くと、途中の斜面の草が刈られていました。咄嗟に、あの子たちは大丈夫かしらん?と思いました。
そこは2ヶ月前の雨の夕方、あの子たちの姿を見た場所でした。
私が折り返して帰ろうとした時、5~6m先に見なれない動物が立っていました。その姿を見た瞬間、私の頭のなかではふだんよく使う動物の名前が浮かんでは消え、ぐるぐるかけめぐりました。★ 続きは題をクリック ↑
これも違う、これも違う、と思っていた時、ずっと昔動物図鑑でみた図柄が浮かびました。鹿に似た体の色に少し濃いこげ茶の斑点が並んでいます。鼻は顔から筒型にのび先はストンと切れています。
それは、体長60cm程の子供のイノシシでした。しかも三頭がより添うように前方を見つめています。
横の広い道路を走り抜けた車に驚き、アッという間にその姿は消えましたが、初めてみた野生のイノシシの子供たちは、残像として目にやきつけられました。
キャンパスはなだらかな山を切り開いて作られています。そのため裏手の方にある一部分は、以前の山の傾斜がそのまま残っていました。急斜面の下には、道路をへだてた向こう側にあるかなり大きな池からの水が、小さな流れを作っています。さらにその上には大きな木々がうっそうとしげり、谷底をおおっていました。
山からきたイノシシの母親は、ほぼ人間の世界なのにめったなことでは人が出入りをしない小さな谷底で、子供を産み育てていたにちがいありません。
子どもたちは自分たちの暮らしている谷底から、おそらく初めて登ってきて、おっかなびっくりで外の世界をみつめていた、そんな姿でした。
散歩ではいつも通っていた道でしたが、その日以来、私にはイノシシの子供たちに思いをはせる特別な空間になりました。
そして今は、ずいぶん大きく成長しただろうあの子たちが、人と出くわす前に山に帰り平和に楽しく暮らしてほしい、と願うばかりです。
この絵は「山羊のみた夢」の3枚目です。1枚目に描いた母さん山羊と2枚目の子山羊がようやく会えた、そんな思いで描きました。
執筆年
2013年
収録・公開
→「『山羊のみた夢 3』」(No. 61:2013年8月29日)
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