私の絵画館52:アイちゃん・ふくまるさんとライラック
あの時ああしていなければとか、こうしていたらというようには、なるべく考えないようにしてきました。
いさぎよいからでは決してなく、そんな風に過去のことを思い始めると、反省したり後悔したりばかりで前に一歩も進めなくなるからです。
それでも、突然昔のある場面や言葉がよみがえる時があります。
先日いつものように猫のご飯を用意していると、高校生だった時ある年配の女性に言われた言葉がふっと浮かんできました。★ 続きは題をクリック ↑
その方とは初対面で、お話した時間も10分か15分だったと思うのですが、別れ際に“これまであなたをそんなふうに育てて下さったお母様に感謝なさいね!”と言われました。
私は思いがけない言葉にありがとうございますとだけ答えましたが、家に帰りそのことを母に話すと、明治生まれの母には珍しく私を抱きしめ”よかったわねえ”と言いました。
当時の私には、言葉の意味も母の気持ちもあまりよくわかりませんでした。けれど、40年近くたって思い出してみると、その言葉は母の気苦労をほんの一瞬だけでも忘れさせてくれる、嬉しい一言だったにちがいないと気付きました。
気付くことはいつもこんなに遅すぎるのですが、私が27歳の時に亡くなった母を久しぶりに身近に感じたひと時でした。
絵のモデルは女の子のアイちゃんと男の子のふくまるさんです。
一昨年大分の高原で個展をしていた時、広島から来られた感じのよい若いご夫婦が飼い主さんです。もともとはグレーのアイちゃんだけだったのですが、3年前の震災のあと福島の方からオッドアイで白いふくまるさんを引きとられたとか。高原でお話しした時には、後から家にやってきたふくまるさんの方が強いので……と悩んでおられましたが、その後のおたよりで少しずつ仲良くなってきていますとありました。ご主人が北海道出身ということで、花は迷わず“ライラック”に決まりました。
出来あがった絵をお送りすると、ライラックに囲まれたアイちゃんとふくまるさんの絵を見ているとすごく暖かい気持ちになれます、と歯医者さんをしておられるご様子のご主人から丁寧なメールをいただきました。
今頃はアイちゃんとふくまるさんは、前よりももっと親しく仲良くなって、二人で遊んでいることと思います。
執筆年
2014年
収録・公開
→「アイちゃん・ふくまるさんとライラック」(No. 69:2014年5月21日)