私の絵画館62:ケーシーとムギ・コトと山藤
三月中頃から四月にかけて、私には小さな楽しみがあります。坂をおりて下のスーパーに行く道の片側は草や木のある斜面で、そこには何羽もの鶯がすんでいます。
学ぶとは<まねぶ>ことだと聞いたことがありますが、それは鶯も同じです。新前の鶯はまだうまく鳴くことができず、ケキョケキョとかホーキョキョなどと単発的に鳴いています。そこで毎年この時期になると、私が鶯に鳴き方を指導(?)しています。★ 続きは題をクリック ↑
自転車で通りすぎる時“ホーーホケキョ”と手本を示すと、それを聞いた鶯が一瞬間をおいた後、まねをします。その<一瞬>は鶯が私の声を黙って聞いているわけで、そうかそういうふうに鳴くのかと次の瞬間にまねをして鳴くのです。
その間(ま)がかわいくて何回かお手本を示しながら通りすぎると、少し後の方で鶯たちが反復練習をするという具合です。
姿は見えませんが、木々のなかで耳をすませて聞いている若い鶯たちの姿が想像できて、私はこの季節を毎年心待ちにしています。
絵のモデルは、福岡県在住の馬のケーシーと犬(ラブラドールレトリーバー)のムギとコトです。飼い主さんはドッグトレーナーの仕事をしておられるので、一番好きな動物はてっきり犬だと思っていたらほんとうは馬だとか。だから馬の絵を描いてもらってプレゼントしたい、とお友だちの獣医さんからご依頼がありました。
そんなわけで最初は馬だけを描く予定でしたが、いろいろお話を聞いていくうちに、飼い主さんができれば馬と犬たちの<三人>もいいなあと迷っておられることがわかりました。
2号の小さな絵のなかに大きさの異なる馬と犬(それも二匹!)を入れるのは、きっと難儀な作業になるだろうと予想はできたのですが。試行錯誤をくり返し何とか出来上がったのが、この絵です。
完成した絵がお手元に届くと“牧場に行った時犬たちは乗馬が終わるのをいつも藤棚の下でじっと待っているので、藤の花の偶然にびっくりしました”とお手紙が届きました。
鶯がしきりに鳴き方を練習し始めるこの頃、今年も山の木々の間には山藤が鮮やかなうす紫の花をたわわに咲かせています。
執筆年
2015年
収録・公開
→「ケーシーとムギ・コトと山藤」(No. 79:2015年5月1日)