つれづれに:下り行け、モーゼ(2022年10月7日)

つれづれに

つれづれに:下り行け、モーゼ

「深い河」(Deep River)は「下り行け、モーゼ」(Go Down Moses)と「ジェリコの戦い」(Joshua fit the battle of Jericho)とをいっしょに考えないと流れがよくわからない。ヘブライ人をエジプト(↑)から連れ出したモーゼが、40年もかけて約束の地に達し、その東の境界がヨルダン川(↑)だったという話には、そもそもなぜモーゼが同胞を連れてエジプトを出たかという話が抜けている。

ポール・ロブソン

ヘブライ人がエジプトと戦争をした。負けたヘブライ人が捕虜としてエジプトに連れて行かれ、奴隷にされたというのが話の始まりである。戦争に負けたときに捕虜になるのは今も同じだ。ウクライナの捕虜の女性がソ連軍に強姦されたと報じられている。西欧諸国に希少金属や鉱物資源を狙われて恒常的に内戦状態のコンゴ東部では銃殺やレイプは常時起こる。婦人科医のデニ・ムクウェゲさん(↓)が2018年にノーベル平和賞を受賞したのは「性暴力によって肉体的、精神的に傷ついた女性たちを20年以上にわたって無償で治療してきた」のが理由である。資源が豊かだったゆえに、西洋諸国に無茶苦茶にされて、今も狂気の世界の最中にいるのに、原因を作った張本人の西洋諸国の賞をもらうとは皮肉なものである。

アメリカのテレビドラマ『緊急救命室』(↓)の「悪夢」の中で、アメリカ人医師といっしょに診療所に向かう車の中で同僚のアフリカ人が「昔は緑が豊かで美しいところだった」と呟く。20世紀の初めに赤道に近いコンゴ盆地に派遣されたアフリカ系アメリカ人牧師はそこに住むルバ人の様子を教会の年報に次のように記している。

「この土地に住む屈強な人々は、男も女も、太古から縛られず、玉蜀黍、豌豆、煙草、馬鈴薯を作り、罠を仕掛けて象牙や豹皮を取り、自らの王と立派な統治機構を持ち、どの町にも法に携わる役人を置いていました。この気高い人たちの人口は恐らく40万、民族の歴史の新しい一ペイジが始まろうとしていました。僅か数年前にこの国を訪れた旅人は、村人が各々一つから四つの部屋のある広い家に住み、妻や子供を慈しんで和やかに暮らす様子を目にしています‥‥」

産業社会に必要な鉱物資源が豊かなために西洋諸国に食い荒らされたコンゴで、日本もODAの予算をつけて、清水建設はコンゴ川に大きな橋を建設した。政府開発援助は先進国が援助や開発の名目で搾取する財政手段の一つで、アメリカの傀儡を永年続けたモブツ独裁政権の財源でもあった。その構図は、もちろん今も継続中である。

エジプトで捕らわれの身となったヘブライ人は結婚も許されていたので、アメリカ大陸に無理やり連れて行かれた奴隷ほどではなかったが、隷属状態は続いていた。年老いた王(ファラオ)の支配から逃れて故郷に連れ戻してくれないか、故郷との間には深い河(↓、Jordan)が流れていてそこまで行っても故郷に辿り着くのは難しいだろうが‥‥、と多くの人が願った。そこに現れたのがモーゼである。こんな場合、神の啓示を受けるものらしい。モーゼはヘブライの捕虜たちを連れて故郷に向かう。そんな話である。その話はモーゼの意志を継いだジョシュアの話「ジェリコの戦い」(Joshua fit the battle of Jericho)に続く。

長谷川 一約束の地』ヨルダン川」から

イスラエルがエジプトの地にあったとき: 我が民を解放せよ / 締め付けは厳しく、もう堪(こら)え切れなかった / 我が民を解放せ

When Israel was in Egypt’s land: Let my people go, / Oppress’d so hard they could not stand, Let my People go.

下り行け、モーセ(モーゼ) / エジプトの地に / 年老いた王に告げよ / 我が民を解放せよと

Go down, Moses, / Way down in Egypt’s land, / Tell old Pharaoh, / Let my people go.

教室ではゴールデンゲイトカルテット(↓、Golden Gate Quartet)の曲を聴いてもらった。軽快で、低い音も響く。「黒人史の栄光」の中に入っているのは「下り行け、モーゼ」(Go Down Moses)だけで、「深い河」(Deep River)と「ジェリコの戦い」(Joshua fit the battle of Jericho)は入っていない。スピリチャルでは「そっと忍んで行こう」(Steal Away)が地下鉄道に関連して含まれている。