つれづれに

つれづれに:レオポルド2世

 ベルギーのレオポルド2世(↑)がコンゴの行く末を大きく変えた。アダム・ホックシールドは『レオポルド王の亡霊』の中で、レオポルド2世がずいぶんと寂しい思いをしながら育ったと幼少の頃について書いている。王室という制度が原因なのか両親や取り巻きが原因なのかはわからないが、いつも地球儀を見ていたとも書いている。ホックシールドが何を源(もと)に書いたのは興味のあるところ、王室の記録を見たのか、側近の話を書きとめた記録をみたのか?元々王室の制度は親子の密度が薄い。生まれてからは乳母が母乳を与えて育てるし、いっしょに添い寝もしないだろうし、部屋も別々である。食事をしても、座る距離は近くない。中国や韓国のドラマを見ても、両親に会う頻度はそう多くない。大きな利権が絡(から)むので、王につく人たちの影響力も強い。政敵を排除するために穢い手も使ったようだし、王位に就くために親兄弟を殺すこともあったようだ。権力者側に着く側近にとっては、担いだ王室を守ることは自分や家族や一族の富や権力を守ることでもあるからだ。

 眺めることが多かった当時の地球儀は宗主国によって色づけがされていたようだが、メキシコとコンゴが白いままだったらしい。叔父がメキシコを植民地を画策したが、逆に現地の人に殺されていたらしい。だから、コンゴだった、というわけである。

 そんなことがあり得るのか?というのが正直な感想だが、コンゴは実際にレオポルド2世の個人の植民地「コンゴ自由国」となった。王が自由にしていい国ということだろう。王は必至でロビー外交をしたようだが、当時の植民地争奪戦の状況とアメリカの国内事情がどんぴしゃりと決まって個人の植民地が成立した、というところである。

 奴隷貿易の資本蓄積で産業革命を起こしたヨーロッパ社会の産業化は急速に進んだ。原材料と市場の需要が高まって、各国は一番近いアフリカで植民地争奪戦を始めた。争奪戦は熾烈を極め、世界大戦の懸念が高まった。それで、植民地の取り分を決めるために主催したのは、1884年11月から翌年の2月までドイツ帝国の首都べルリンで会議を開いた。参加したのは欧米諸国とオスマン帝国を含む14ケ国である。すでに植民地化は進んでいたわけだから、取り分の再確認の色彩が強かった。地図上で国境線を引いたので、後の紛争の元にもなったが、手付かずのコンゴをどうするかを決める必要があった。

 ここでしゃしゃり出て来たのがアメリカである。イギリスはこれ以上植民地を増やす余裕はないが、競争相手のフランスには取られたくない。ベルギーは歴史の浅い経済力のない小国、イギリスもフランスもベルギーに譲るならお互いに安全と計算した。アメリカは増え続けるアフリカ人奴隷の子孫をアフリカ大陸に送り返せという声が強くなっていて、その解決策としてコンゴに目をつけた。下院議長がコンゴに牧師2名を送り込んで、本格的に候補地探しをする法案を通して、ベルリン会議でベルギー支持の条件として提出した。イギリスとフランスと米の思惑が一致し、レオポルド2世の接待外交も功を奏して、レオポルド2世個人の植民地「コンゴ自由国」が承認された、というわけである。レオポルド2世はその植民地で何をしたか?が次回である。

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2024年3月「つれづれに」一覧

 

「ZoomAA5第5回目報告」(2024年3月31日)

「つれづれに:共著」(2024年3月28日)

「つれづれに:春の嵐」(2024年3月27日)

「つれづれに:出版」(2024年3月25日)

「つれづれに:小説」(2024年3月23日)

「つれづれに:鎌倉」(2024年3月19日)

「つれづれに:江之電と『天国と地獄』」(2024年3月18日)

「つれづれに:海岸道路」(2024年3月16日)

「つれづれに:湘南」(2024年3月15日)

「つれづれに:春模様」(2024年3月3日)

「つれづれに:落とし物」(2024年3月2日)

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つれづれに:国連軍

 身の危険を感じたルムンバは国連に支援を要請したが、国連はルムンバを助けなかった。要請通り国連軍を派遣はしたが、傍観するだけでなく、政府軍を押さえにかかっている。

いち早く危機を察知できたのは、閣僚の一人トーマス・カンザが国連大使として国連にいて、不穏な動きを予感してルムンバに知らせていたからである。しかし、予め察知して防げるくらいなら、事態は起こっていない。国連大使だったカンザがデヴィドスンの取材を受けて「アフリカシリーズ」にも登場している。当時の状況を次のように語る。

私は27歳でキンシャサのルムンバ内閣の国連大使になりました。閣僚36人中、大卒は私を入れて3人でした。大国がコンゴで利権を確立するためには、ルムンバのような人物は脅威でした。私は国連でコンゴ危機を予感しました。国連軍の介入が遅れると‥‥しかも国連は欧米から資金を得ています。コンゴはたちまち国際的な植民地と化したのです。

 当時の状況をデヴィドスンは「アフリカシリーズ」で以下のようにまとめてくれている。

ルムンバの要請で国連軍がやってきた。ところが国連軍はルムンバ政権を守るどころかカタンガ州を守り、政府軍を押さえ込みにかかったのです。これは国連軍の汚点、ルムンバには死の宣告でした。彼はアメリカの援助のもとにクーデターを起こした政府軍のモブツ大佐に捕らえられました。そして、利権目当てに外国が支援するカタンガ州に送られ、そこで惨殺されてしまったのです。

ガーナの外交官だったヤー・テルクソンが「アフリカシリーズ」のインタビューを受けて、次のようにコンゴ動乱の結果を総括している。

コンゴ動乱は我々には悲劇でした。エンクルマやパン・アフリカにストの願いは破れました。アフリカの統一はならず、アフリカ諸国の間でコンゴ1国もまとめられなかった。

 のちに、カンザは『パトリシュ・ルムンバの盛衰ーコンゴの紛争』を出版している。私も購入して読むことになったが、若くして閣僚の一員として国連大使となり、国連で外交にもまれた眼をとおして赤裸々に当時の成り行きを綴(つづ)っている。若くして身をもって大国の横暴を思い知らされたわけである。

 国連は第二次大戦を防げなかった国際連盟の反省を踏まえて、1945年10月に51か国でスタートし、日本は1956年に加盟、現在は193か国が加盟している。英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、アラビア語が公用語である。元々主に欧米の資金で運営されているので、大国の都合のいいように運用される。憲章の第1条で「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること‥‥」と規定されているが、条文だけに終わることも多い。コンゴの場合、国連軍を派遣してルムンバの惨殺を見届けるのが「国際の平和及び安全を維持する」ことだったわけである。非難決議や経済制裁を決めても、守らないだけである。罰則規定があるはずもない。アパルトヘイト政権に経済制裁を決めて迫っても、政権もとお得意先のどの国も貿易を止めてはいない。与党自民党に取っても、高度経済成長を止める政策を進めるわけには行かなかった。南アフリカからアフリカ人の安い賃金で掘り出された金やダイヤモンドを輸入し、車や家電を大量に売りつけ続けた。与党で経済界と白人政府の橋渡し役だった石原慎太郎は議員のあと都知事を3回もやっている。都民が選んだわけだが、建設や農産物やの利権の橋渡しもしているので、自民党にたくさんの人が票を入れる。連立を組んだ宗教団体を基盤にする党に建設の利権を渡しても、票での見返りを優先するわけだ。世の中の人がコロナで大変な時にオリンピックなんてといくら反対しても、全通などの大手と組んで利権にしがみついた。仕切った長老は、裏金疑惑の張本人でも罰せられることはない。遠いコンゴの出来ごとの構図は、日本でも同じだったわけである。また、溜息が出る。

『レオポルド王の亡霊』には、ルムンバ殺害はアメリカ大統領がCIAに暗殺命令を出していた、とあった。いわば、誰かが内部告発したということだろう。1998年にアメリカで出版されている。アダム・ホックシールドの著書で、モブツの独裁、コンゴ動乱と独立を、植民地自裁のレオポルド王まで詳しく遡(さかのぼ)ってくれている。この書も、後世畏るべしを感じた1冊である。次はレオポルド王の個人の植民地コンゴ自由国である。

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2024年4月「つれづれに」一覧

 

「つれづれに:コンゴの独立」(2024年4月30日)

「つれづれに:映像1976年」(2024年4月29日)

「つれづれに:1976年」(2024年4月28日)

「つれづれに:音声『アウトブレイク』」(2024年4月27日)

「つれづれに:『アウトブレイク』」(2024年4月26日)

「つれづれに:ロイター発」(2024年4月25日)

「つれづれに:ロイター」(2024年4月24日)

「つれづれに:CNNニュース」(2024年4月23日)

「つれづれに:エボラ出血熱」(2024年4月22日)

「ZoomAA6第6回目報告」(2024年4月21日)

「つれづれに:四月も下旬に」(2024年4月20日)

「つれづれに:読む」(2024年4月18日)

「つれづれに:ニュアンス」(2024年4月17日)

「つれづれに:想像力」(2024年4月16日)

「つれづれに:旅番組」(2024年4月15日)

「つれづれに:薊」(2024年4月14日)

「つれづれに:ニュースを聞く」(2024年4月13日)

「つれづれに:面接」(2024年4月日)

「つれづれに:独り言」(2024年4月11日)

「つれづれに:花が咲き」(2024年4月10日)

「つれづれに:研究費」(2024年4月8日)

「つれづれに:衛星放送」(2024年4月7日)

「つれづれに:テキスト編纂2」(2024年4月6日)

「つれづれに:イリスが咲き出した」(2024年4月5日)

「つれづれに:テキスト編纂1」(2024年4月4日)

「つれづれに:きんぽうげ」(2024年4月3日)

「つれづれに:桜まつり」(2024年4月2日)

「つれづれに:4月になった」(2024年4月1日)