つれづれに:阿蘇に自転車で(2022年5月11日)

2022年5月11日つれづれに

 

阿蘇に自転車で

阿蘇山

 大学院の2回目の入試が終わった夜、神戸港から別府行きのフェリーに乗った。(→「大学院入試」、5月10日)もちろん、今回はひとりである。(→「関門海峡」、4月26日))阿蘇山を自転車で登るつもりだった。30くらいで死ぬまでの間の余生のつもりで何とか生き永らえていたのに、定収入を得るために職に就くことになろうとは。(→「百万円」、4月30日)それなりの激変で、大変な毎日だったから、一区切りつけたい気持ちもあったのかも知れない。山も自転車で登れると思ったのは、宮崎のユースホステルで同室になった人の、30年ぶりの雪の知らせを聞いて、阿蘇には自転車は押して行くしかないな、と言った一言がきかけだった。(→「臼杵」、4月25日)その時から、いつか自転車で阿蘇に行くと決めていた。

別府湾を望む

 阿蘇は二度目だった。高校の修学旅行で来ている。集団が苦手なのに、中学校でも東京まで行っている。東京オリンピックがあったので、一年早く行った記憶がある。よくも黙って参加したものである。ほとんど覚えてないが、火口から中を覗いたような気がする。

船に乗ったのは夜だったから、フェリーは朝早くに着いたはずである。夕方まで街中を回ったようで、夕方に、別府湾を見渡せる道の坂を登ってやまなみハイウェイに入った。かなりの傾斜だったが、一度も降りないで一気に坂を登った。夏に中国山脈の生野峠を通って山陰海岸を回って以来、急な坂をむきになって降りないでこぐ癖がついてしまった。地図ではわからないが、山陰海岸のでこぼこの坂は、きつかった。ここは坂を登ってしまえば、あとはそう起伏もなく進めそうである。しかし、実際には峠などもあり、それなりの坂もあった。10時か11時くらいだったような気がする。疲れが出始めたので、道端に自転車を止め、寝袋を出して寝ることにした。車が時折行き交う程度だったので、音はそれほど気にならなかった。しばらく眠ったように思う。人の気配がして目を開けてみると、目の前に覗き込む人の大きな顔があった。「どうしたんですか?大丈夫ですか?」

道端に自転車を停めて寝ている姿が気になって声をかけてくれたようである。津山駅と同じで(→「山陰」、5月6日)、人のよさそうな初老の男性だった。「あ、どうも、疲れたんで、寝てるだけですよ」何人かが同じように声をかけてくれた。少し奥まった所で寝袋を広げればよかった、とその時は思いもしなかった。寝ているわけにも行かず、また自転車をこぎ出した。標高1330メートル、牧ノ戸峠の標識があった。

宮崎に来てから車で連れて行ってもらった牧ノ戸峠

 暗くてわからなかったが、峠を降りて阿蘇町に入り、やまなみハイウェイを進んでいたようである。真っ暗な中を自転車をこいでいたら、なぜか右肩の上の方で、鳥の囀りが聞こえた。最初は空耳かとも思ったが、かなりのあいだその囀りが続いていた。ずーっと離れずについてきたようだった。鳥は鳥目で見えへんやろに、と思いながら、いっしょに進んだ。本当に鳥の囀りだったのか、今となっては検証のしようもない。

やまなみハイウェイ(「九州芸術の杜」での「個展」時に)

 回りが明るくなって、阿蘇が見え始めた。標識に従って、火口まで登り始めたとき、急に疲れを感じた。このまま進めるとは思ったが、中腹に自転車を止めて、草原の中で昼寝した。ぽかぽかとして気持ちよかった。どれくらい眠ったのか。起きてまた、火口まで自転車をこいだ。帰りの坂道を下るのは一瞬だった。熊本と宮崎の県境の高森峠から高千穂に入った。入学した年が日米安保の再改定の年で、この時が6年次、1976年である。高森峠の一部は砂利道だった。その後経済成長を続け、全国の隅々まで舗装されたようだから、砂利道の写真は貴重なもので、まさかブログにこの時のことを書くとは夢にも思わなかった。ウェブで探してみると、当時の写真があった。記憶にはないが、この時旧高森遂道を通ったようである。

今は高森峠遂道らしい

 高千穂では自転車を止めて、高千穂峡を見に行ったように思う。今なら近くの高千穂神社に行って、山頭火の「分け入っても分け入っても青い山」の句碑を探すところだが。

 高千穂からは延岡までなだらかな下り坂が続いていた。今は新道になって、トンネルもあって距離が短くなったようだ。おぼろげにしか覚えていないが、坂の途中で自転車がパンクした。雨でも降ってたのか、水溜まりを使ってパンクを貼った。

高千穂ー延岡間の旧道

 作業をしながら、何だか気が抜けてしまって、もういいや、帰ろ、と思ってしまった。このあと宮崎から鹿児島を経て、九州の南端佐多岬まで行こうとぼんやりと考えていたが、どうやら気持ちの区切りがついたらしかった。日向市の細島港から、神戸行きのフェリーに乗った。

細島港

 次回は、生野峠、か。