つれづれに:金芝河さん1(2022年5月25日)

2022年5月25日つれづれに

 

つれづれに:金芝河さん1

『不帰』の扉写真

 最近新聞で、韓国の詩人金芝河(きむじは)さんの訃報を読んだ。出版社の社長さんからグギさんの評論『作家、その政治とのかかわり』の日本語訳を頼まれた時、その中にその人の詩が含まれていたので、いっしょに日本語訳をした。韓国についても金芝河さんについてもよく知らなかったので、妻の書棚にあった『金芝河(キム・ジハ) 民衆の声』(サイマル出版会)と知り合いから借りた『現代文学読本 金芝河』(清山社)、金芝河著『不帰』(中央公論社)、姜舜訳『金芝河詩集』と、韓国の歴史の本を何冊か読んだ。初めて知ることも多かった。妻の書棚の本には、ひらがなの旧姓と1975.1が記されてあった。結婚前に買って読んだようだ。山之口獏で修士論文を書いたそうで、本棚には、誌と絵画の本と絵本が多かった。

グギ・ワ・ジオンゴ『作家、その政治とのかかわり』

 出版社の社長さんはグギさんとケニアでも日本でも会い、日本語訳も何冊か出していて、翻訳出版も続けていた。いつか同時通訳の役が回って来そうで、その準備もしてはいた。出来れば避(よ)けたかったが、案の定、『作家、その政治とのかかわり』の話がさりげなく舞い込んで来たのである。身に余る光栄と言いたかったが、そんな力量もないし、グギさんもケニアもほとんど知らない。ケニアの事情や歴史も知る必要があるし、先ずはグギさんの本を読まないといけない。考えるだけで、気の遠くなるような話で、予測される大変さの方が大きかった。

小島けい挿画(『アフリカとその末裔たち』)

 グギさんは多作で、果てしなく分厚い本もあり、読むだけでも大変である。ギクユ語なら最初から諦めるが、運悪く英語版が揃っている。作中に使われているギクユ語については同郷のムアンギさんに聞くしかない。大阪工大で一時期いっしょに非常勤をして、明石の家に来たこともある。結局、日本語訳に丸々2年ほどかかった。グギさんがギクユ語で書き始めた経緯や新植民地支配下にあるケニアの政治情勢に加えて、韓国軍事政権下の金芝河に、アフリカ系アメリカ文学と思想まで含まれていた。一つでも大変なのに、手に余る、そんな感じの2年間だった。日本人一般のアフリカへの関心や常識を考えても、間違ってもアフリカの本が売れるわけがない。出版に二百万か、三百万か要ると言われた。払う人もいたようだが、出せずに未出版のままである。

ムアンギさん、先輩(左側二人)と、1988年大阪工大で

 時事コムの訃報である。(↓)

金芝河氏(キム・ジハ、本名金英一=キム・ヨンイル=韓国の詩人)韓国メディアによると、8日午後4時(日本時間同)ごろ、江原道原州の自宅で死去、81歳。1年余り闘病生活を送っていた。全羅南道木浦出身。ソウル大美学科卒。朴正熙政権下の1974年、民主化運動関係者が次々逮捕された「民青学連事件」で死刑判決を受けたが、後に無期に減刑、釈放された。代表作は「長い暗闇の彼方に」。他にも邦訳が多数ある。

『金芝河(キム・ジハ) 民衆の声』より

 次回は、続きの金芝河さん2、か。