つれづれに:大統領選(2024年9月23日)

つれづれに

つれづれに:大統領選

 人類史上で恐らく最も利益を生むことになった薬抗HIV製剤は、アメリカの大統領選まで左右する事態になった。それだけ、巨大な資本が絡(から)んでいたということだろう。コロナ騒動で全国民がマスクを強制され、外出や移動の自粛を迫られている最中に、しかも国民の大多数が強く反対しているにも関わらずオリンピックを無観客でも強行したのは、巨大な資本が蠢(うごめ)いていたからである。既得権益に味をしめる輩(やから)がコロナごときで、その権益を手放すわけがない。
1997年に、コンパルソリー・ライセンス法を制定して安くコピー薬を創り始めた南アフリカに対し圧力をかけたアメリカ副大統領ゴアを鋭く批判したのはイギリスの科学誌「ネイチャー」(Nature July 1, 1999)の論説記事(Editorial)である。

「熱き民主党の大統領候補者オル・ゴアは、エイズ問題に関してそれなりの信念を持ってやってきていましたが、ある緊急のエイズ問題で、製薬会社の言いなりの冷たいおべっか使いという汚名を着せられて、自らを弁護する窮地に立たされています。
この春に行なわれた出産前の臨床調査では、性的に活発な年齢層の22%がHIVに感染しており、2010年までにエイズによって平均寿命が40歳を下回ると予想されています。発症と死の時期を遅らせることが可能になったカクテル療法はごく少数の恵まれた人以外、南アフリカでは誰の手にも届きません。
この事態に直面して、1997年、政府はある法律を通しました。同法の下では、権利の保有者にある一定の特許料を払うだけで国内の製薬会社が特許料を全額は支払わずともより安価な製剤を製造することが出来るという権利、いわゆるコンパルソリー・ライセンスを厚生大臣が保証出来るというものでした‥‥
欧米の製薬会社はそれを違反だとして同法の施行を延期させるように南アフリカを提訴し、ゴアと通商代表部は‥‥その法律を改正するか破棄するように求めました。
公平に見て、アメリカの取り組みを記述するその強引な文言は、数々の巨大製薬会社の本拠地であるニュージャージー州から選出された共和党議員の圧力に屈して国務省がでっち上げたものです‥‥
しかしながら、動機がどうであれ、最近のゴアの記録は事実として残ります。南アフリカ大統領タボ・ムベキ(↓)とともに、米国―南アフリカ二国間委員会の共同議長としての役割を利用して、副大統領は、悲惨な疫病に直面して絶望的な状況にある国民に薬を手に入れると誓って約束した一つの統治国家に対して無理強いを繰り返したのです。これまで『良心の価値』(values of conscience)を唱え続けて来た人の口から出た言葉であるだけに、その発言は、少し喉元にひっかかりを感じます」

 論点は南アフリカやブラジルのHIV感染やエイズの死亡者数の当時の状況が「国家的な危機や特に緊急な場合」だったかどうかである。ゴアと通商代表部が南アフリカ政府に「コンパルソリー・ライセンス」法を改正するか破棄するように求めたのは、南アフリカのやり方が開発者の利益を守るべき特許権を侵害し、世界貿易機関(WTO)の貿易関連知的財産権協定(TRIP’s Agreement)に違反していると主張したからである。しかし、1985年頃から始まったアフリカ大陸の感染状況は凄(すさ)まじかった。特にマンデラが釈放された1990から2000年頃までの爆発感染は尋常ではなかった。南アフリカの経済の核となっているヨハネスブルグ金鉱(↓)の周辺には南部諸国から短期の契約労働者が集まる。

 田舎から単身赴任で出稼ぎに来て、コンパウンドと呼ばれるたこ部屋に集団で住む。その周辺にその労働者目当ての売春婦がたむろして、HIVに感染。契約切れのあと田舎に帰って配偶者にうつす。出稼ぎで男手の少ない田舎の農作業や老人や子供の世話を一身に担う女性たちがエイズで斃(たお)れ、孤児が増え、このままでは村ごとなくなるのではないか、そんな報道が2000年前後に盛んに報道された。欧米のメディアは、CDCが担ぐギャロが言い出したエイズのアフリカ起源説をこれ見たことかと繰り返し取り上げた。責任の転嫁を図ろうとしたのか?しかし、あまりのHIV感染者数に疑問を感じたいくつかの欧米のNGOがアフリカの各地を回って感染状況を調べたら、7割から8割がHIV陰性だった。風邪やマラリアの初期症状の患者も皆HIV陽性者と報告していたことが原因だったのである。さらに、1996年に国連エイズ計画(UNAIDS)を発足させた国連は、資金集めのために、その報道の一翼を担った。2000年11月にはUNAIDSが2000年末のHIV感染者数は推定3610万人と発表した。

 結果的には、CDCや国連や製薬会社の自業自得だったと言える。当時の状況が「国家的な危機や特に緊急な場合」と言えるほどではなかったかも知れないが、自分たちがはじき出し、盛んに自分たちのメディアで煽(あお)り立てた数字では、「国家的な危機や特に緊急な場合」に該当するのは誰が見ても明らかだった。

 現在アメリカで展開されている大統領選を見ていると、「ネイチャー」が指摘するように、あからさまな共和党のネガティヴキャンペーンに利用されたのは否定できない。しかし、実際には大統領選でゴアがブッシュに僅差で敗れた。石油業界や兵器産業界が地盤のブッシュは父親がした湾岸戦争にならって、武器の在庫を一掃するかのようにイラク戦争を強行した。

トランプの無茶ぶりを見せつけられたあとだけに、頭も切れ良識派だったゴアが製薬会社との繋(つな)がりを優先させて多数の票を失い、落選したのは残念である。途中まで優勢だっただけに余計に、である。エイズは、アメリカの大統領選も左右するほどの大問題だったのである。