概要
前回は「アフリカとその末裔たち」(Africa and its Descendants 1)の2章「南アフリカの闘い」("The Struggle for South Africa")の後半で、①アフリカ人がヨーロッパ人入植者と戦った解放運動と、②白人政権に協力した日本と南アフリカの関係について書きました。
今回は、①北米に渡ったイギリス人入植者の繁栄の基礎となった奴隷貿易と、②奴隷制について書こうと思います。
本文
① 奴隷貿易
1章でイギリスやフランスなどの西ヨーロッパ諸国がこの五百年余りの間に繰り広げてきた侵略行為、奴隷貿易、植民地支配、新植民地支配の歴史を、2章でごく最近まで極端な形の植民地支配が続いていた南アフリカの歴史を辿りましたが、今回はイギリス人が入植したアメリカの歴史を辿ります。
民衆に愛された詩人ラングストン・ヒューズが「黒人史の栄光」(1958年)の冒頭で書いているように、アフリカ系アメリカ人は当初、探検家や水先案内人として新大陸に行きました。決して、奴隷として行ったわけではありませんでした。
大学用テキスト「黒人史の栄光」(南雲堂)
アメリカで最初に奴隷が運ばれたのは1619年。メイフラワー号で清教徒が現在のヴァージニア州ジェイムズタウン入植地にやってくる前の年です。19人のアフリカ人が売り払われました。以来19世紀半ばまで、主に西アフリカから少なく見積もっても900万人、多ければ1500~5000万人ものアフリカ人が大西洋を渡って無理やり連れ込まれたと言われています。
奴隷を運ぶ帆船(「ルーツ」より)
奴隷商人の利益と、アメリカからもたらされた産物は、ヨーロッパでアフリカへ連れて行かれて奴隷と交換される鉄砲や布に交換されました。奴隷はアメリカで売却され、そこでヨーロッパに運ばれる商品を作り出しました。所謂「三角貿易」です。産業資本家の富が増えて、アフリカが被害を受けました。
ヨーロッパ、中でもイギリスとアメリカの資本家たちが奴隷貿易と奴隷が行なう労働から莫大な利益を手に入れました。奴隷制は国際資本市場で重要な役割を担っていました。この大西洋を渡る奴隷貿易によって、大規模な初期の富の集積が行なわれ、資本主義への道をまっしぐらに進み始めました。「三角貿易」はヨーロッパの産業革命の基礎の一つでした。
奴隷のクンタ・キンテとデービス船長(「ルーツ」より)
中学校や高校で扱われる世界史では、「ワットが蒸気機関を発明して産業革命が起こり・・・・」と言われますが、産業革命を可能にした資本は、実は西欧諸国がアフリカ人から長年搾り続けて蓄積したものだったわけです。
アフリカにとって、奴隷貿易によってもたらされたものは、奴隷として連れ出された何百万もの人々とその子孫の際限ない苦しみという意味だけではなく、後に残された人たちにとっても、壊滅的でした。
② 奴隷制
無理やりアメリカに連れて来られた奴隷は大農園に売られて、綿、米、玉蜀黍(とうもろこし)、小麦などを栽培し、道路を建設したり、森林を伐採するなど、初期のアメリカの土台を作ったあらゆる過酷な労働を強いられました。
また召使い(メイドやボーイ)として白人にこき使われ、読み書きも禁じられました。逃げる者もいましたが、奴隷狩りに捕まって、多くが見せしめに厳しい屈辱的な罰を受けました。
奴隷の反乱もありました。大抵は力で押さえ込まれましたが、1831年のナット・ターナーの反乱では、60人ほどの奴隷主が殺されました。奴隷の不満が募れば募るほど、ますます反乱が起き、北部へ逃亡する奴隷の数も増えていきました。
1859年のジョン・ブラウンの反乱では、総勢23名がヴァージニア州のハーパーズフェリーにある政府の兵器庫を襲い、武器を奪いました。結果的には鎮圧されますが、ジョン・ブラウンが白人であったこと、計画的に兵器庫を襲って武装蜂起をしたこと、わずか22人の規模だったにもかかわらず政府軍をつぎ込んでも鎮圧に二日間かかったことなどの理由から、その蜂起は奴隷制を根幹から揺るがし、南北戦争のきっかけの一つになりました。
(ジョン・ブラウン)
西欧の資本家は奴隷貿易やアメリカでの奴隷の労働によって得た利益を自分たちの産業を発展させるために使い、産業資本家が、奴隷貿易に投資した資本家よりも次第に力をつけて行きました。
次回は「アフリカ系アメリカ小史②」です。(宮崎大学医学部教員)
アフリカ系アメリカ小史前半では、「奴隷貿易」→「奴隷制度」の流れに沿って、英文で書きました。日本語訳もつけた全文は、下のアドレスをクリックすれば “A Short History of Black Americans” in Africa and Its Descendants「アメリカ黒人小史」:『アフリカとその末裔たち』(Mondo Books, 1995; 2009; Chapter 3, pp. 72-78)のワードファイルをダウンロード出来ます。→ https://kojimakei.jp/tamada/works/africa/ZimHis8a.docx(画面上に出てくるZimHis8.docxです。)
『アフリカとその末裔たち』