『ナイスピープル』理解27:シンポジウム「アフリカとエイズを語る」報告6
概要
2011年11月26日に宮崎大学医学部で開催したシンポジウム「アフリカとエイズを語る―アフリカを遠いトコロと思っているあなたへ―」を何回かにわけてご報告していますが、前号でご紹介したシンポジウム「『ナイスピープル』理解26:シンポジウム『アフリカとエイズを語る』報告5」(「モンド通信 No. 46」、2012年6月10日)の続きで、五番目の発表者天満雄一氏の報告です。今回が最終報告です。
天満氏によるシンポジウムのポスター
本文
シンポジウム『アフリカとエイズを語る』報告(6):天満雄一氏の発表
会場で紹介するために司会進行役の南部みゆきさんが予め本人から聞いていたアフリカ滞在歴と経歴は以下の通りです。
「天満雄一(てんまゆういち)宮崎大学医学部医学科6年
2007年3月11日より24日までザンビアに滞在。学生団体IFMSA-Japan(国際医学生連盟 日本)で友人とAfrica Village Projectを立ち上げ、TICOというNPOの協力のもと現地の健康意識調査等を行いました。また、2007年7月30日から8月10日までマダガスカルに滞在し、jaih-s(日本国際保健医療学会学生支部)のプログラムを通じて、JICAの運営するマダガスカル母子保健プロジェクトの活動視察を行いました。」
発表ではパワーポイントのファイルを使ってたくさんの写真を紹介していますが、写真は省いてあります。
「ザンビア体験記:実際に行って分かること」 天 満 雄 一
天満雄一氏
ザンビアに行ったのは2008年の3月で、IFMSA-Japan(国際医学生連盟)という学生団体での活動がきっかけでした。IFMSAは1951年に設立されたフランスに本部に置く、医学生を中心とした国際NGO団体で、100ヶ国以上の国の医学生が何らかの形で活動しています。IFMSA-JapanというのはIFMSAの日本支部で、現在医学部を有する51の大学が加盟し、約500人の医療系学生が活動しています。
ここの団体の活動で出会った他大学の学生との「アフリカに行きたいな。」という他愛もない話が、ザンビアに行くきっかけとなりました。アフリカに行くなら、単なる旅行ではなく、目的を持ったプロジェクトで行こうということになったのです。ただ、アフリカに行き何らかの活動をするといっても、はじめは何をしていいかわからず、そこで実際にアフリカで活動しているNGO団体を探し連絡をとることから活動をはじめました。その時にTICOという主にザンビアで活動する徳島のNGO団体に出会い、協力してもらえることとなり、そういった経緯から目的地がザンビアに決定しました。
ザンビアはサハラ以南の国で、面積は日本の約2倍、人口は約1200万、73もの部族が存在し、公用語は英語となっていますが、それぞれの部族でそれぞれの言語を使用し、教育を受けていない大人や、街からはずれた場所では、英語を理解できない人も多く見られます。また、世界3大瀑布の1つであるビクトリアの滝やサファリなど多くのあるがままの自然が残っている国です。
アフリカの地図
UNICEFのデータによると、2004年時に比べて2009年には大幅に経済や教育指標の改善が見られました。HIVの感染率も2004年に16. 8%であったのが、2009年のデータでは13. 5%とまだまだ高いものの、データとしては大幅な改善が見られました。しかし、私は実際にザンビアに行った経験より、これらのデータが必ずしも現状を表した正しい数字を示しているとは限らないのではないかと思います。
私は他のメンバーとともに現地に行き、主に5歳以下の子どもを持つ母親を中心とした住人の健康意識調査や、井戸の水質調査、伝統的産婆へのインタビューに加え、病院や孤児院やJICAの運営するHIV/AIDSプロジェクトの見学をさせてもらいました。こういった活動に備えて、私はTICOにも協力してもらいながら、メンバーとともに1年以上の時間をかけて、ザンビアの現状やアフリカのことについて学び、そして計画を練ってきました。しかし実際に現地へ赴き活動してみて、いかに自分がアフリカについて、そしてザンビアについて知らなかったのかということを思い知らされました。例えば調査の中で、「どこで子どもを産みましたか?」という質問があり、それに対する答えとしては、診療所や病院、他には自宅や伝統的産婆の所という答えを想定して選択肢を設けていたのですが、10%以上の母親が路上という回答をしました。これはつまり、産気づいてからそれらの場所に向かおうとしたが、車などの移動手段がなく、またそれぞれの場所が離れているため間に合わなくなり途中で産まれてしまったという理由からでした。またその場合子どもが破傷風などの感染症にかかることも多く、実際に話を聞いた3分の1以上の母親が子どもを亡くした経験があるということも驚きでした。また、水質調査では井戸がいわゆる井戸ではなく、地面に穴を掘っただけの水たまりのような程度のものであり、そこで大腸菌が検出されたにも関わらず、住民が日常の飲み水や生活水として用いていることも衝撃を受けました。
HIV/AIDSに関しても同様に衝撃を受けることが多くありました。1つは孤児院の見学です。HIV/AIDSに関しては疾患自体の感染率や発症人数、それらの対処方法に目が行きがちですが、実際に疾患が社会に様々な影響を与えていることを孤児院の見学を通して感じました。訪れた孤児院で最も孤児である原因として多かったのは、AIDSによる親の死でした。AIDSは性交渉により感染することもあり、親が2人とも感染していることも稀ではありません。また親が生きていたとしても、感染による体調不良や片親であることを理由に孤児院に来た子どもは多いということでした。さらに、母子感染により生まれて間もないながらHIV感染が認められる子どもも多いとのことでした。そういったようにHIV/AIDSは目の前の患者だけではなく、次の世代にも多くの問題を残しているのだと感じ、ただ治療が良くなるだけでは解決できない問題の根の深さを感じました。
同様にJICAが行っているHIV/AIDSプロジェクトの見学の中でも、いろいろなことを考えされました。ザンビアではHIV/AIDSに対する薬を配布しており、診断がつけば患者は無料で薬を手にすることができます。今はHIV/AIDSの薬が良くなってきたこともあり、たとえHIVに感染したとしても、薬を正しく飲み続けられれば寿命を大きく損なうことはないのが現状です。それゆえに、そのような政策がとられているなら、今後はザンビアのHIV/AIDSの問題はだいぶ改善に向かっているのではないかと思いました。しかし、実際にその現場を見て話を聞き、それがそんな簡単な問題ではないことがわかりました。薬が無料で配布されていたとしてもそれを行う診療所や病院まで行く手段がないのです。最寄りの診療所や病院まで10km以上離れていて、そこまで歩く以外、バスや自転車などの交通手段がない状況でそれを受け取るだけに病院や診療所に定期的に通うのが難しい状況にある人が多くいました。また薬を手に入れてもそれを他の誰かに売ってお金にするという人がいたりなどというような現状があり、これも日本にいて入る情報だけではなかなか気づきにくいことだと思いました。
天満雄一氏
ザンビアに行った経験を一言で表すと「百聞は一見にしかず。」。プロジェクトを通じてザンビアに実際に行き、現地の状況を自分の目で見、そして現地の人の話を自分の耳で聞いて、多くの驚きと発見があったと同時に、自分が何もわかっていなかった現実を思い知らされました。インターネットや本で出てくる情報やデータだけでは、見えない現実も多くあることを実感しました。私は国際保健の分野に興味を持っており、将来的にその道に進むことも考えているのですが、今回の経験を通して、現場に赴き現状を自分自身で体感することが如何に大事かということを学びました。
またアフリカのことが好きな人や、今回のシンポジウムを通じてアフリカに興味が湧いた人は、是非機会があれば実際にアフリカの地を訪れ、自身の目や耳でアフリカを体験し、そしてアフリカを感じてきてもらいたいと思います。
宮崎医科大学(現在は宮崎大学医学部、旧大学ホームページから)
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大学祭の翌週ということもあって参加者は少なかったのですが、毎日新聞の石田宗久記者が参加して下さって以下のような報告記事を翌日に掲載して下さいました。
アフリカの現実を知って 宮大医学部でHIVシンポ
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)を通じてアフリカの保健事情を考えるシンポジウム
「アフリカとエイズを語る―アフリカを遠いトコロと思っているあなたへ―」が26日、宮崎大学医学部であった。玉田吉行教授(アフリカ文学)や医学生ら滞在経験のある5人が、貧困の背景や現地の医療事情などを語った。
アフリカの現実を知ってほしいと企画した。
海外青年協力隊でタンザニアに滞在した宮崎大出身の服部晃好医師は、世界のHIV感染患者推定数3330万人中、2250万人がサハラ砂漠以南のアフリカ在住とのデータを紹介。「奴隷貿易の歴史や先進国のアフリカ政策が国力のなさにつながっている」と指摘した。
玉田教授も「貧困がエイズ関連の病気を誘発している。開発や援助の名目で搾取されている」と先進国民の無関心さを批判した。
医学生3人はザンビアなどでNGO(非政府組織)の保健意識調査などに参加した体験を語った。
医学科6年の天満雄一さん(30)は、不十分な医療体制で子供を亡くした母親たちに話を聞いたといい「現地に行くまで全然分かっていなかった。将来は国際保健のために働きたい」と話した。【石田宗久】
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シンポジウムの報告もアフリカとエイズについても今回が最終回で、次回からは「アフリカ史再考」(仮題)を連載したいと考えています。この十年以上、色々な角度からアフリカとエイズについて考えてきましたが、その中で一番感じたのは、病気の問題を考えるのに社会や歴史や文化なども含めた包括的なものの見方が必要だということでした。1980年の初めにアフリカ系アメリカ人の文学を理解するために辿り始めたアフリカの歴史について、今までやってきたことのまとめの意味も含めて、もう一度考え直してみたいと思っています。(宮崎大学医学部教員)
石田記者
毎日新聞の報告記事
執筆年
2012年7月10日
収録・公開
ダウンロード・閲覧
(作業中)