つれづれに:CNNニュース(2024年4月23日)

2024年4月23日つれづれに

つれづれに:CNNニュース

 1995年の春に突然エボラ出血熱流行の報道が流れた。コンゴでの流行も初めてではなかったが、テレビでも連日報じられ、ニュースや新聞などでも大々的に扱われた。80年代の後半にベルリンの壁が崩壊し、1990年には27年ぶりにネルソン・マンデラが釈放され、4年後には大統領になった。前年にサンフランシスコで大きな地震があり、年が明けて淡路・阪神大震災もあった。都市直下型の地震の怖さを思い知らされた。寸断された高速から落ちかけの車や傾いたままの高いビルなどの映像は強烈だった。2ケ月後に知人を訪ねて地震跡を回った時も、手付かずのところも多かった。またぞろ、世紀末かという報道も出始めたころである。コンゴから持ち帰った強力なウィルスのサンプルで生物兵器を造り、大統領命令でその兵器が投下されそうになったというアメリカ映画がその前の年に公開されて話題になった。その分余計に、エボラ出血熱が大きく取り上げられた傾向は否めないだろう。

 その頃録画したCNN(Cable News Network)ニュースは、一般教育と医学を繋(つな)ぎたいと考えていた私には、想像以上に使い勝手があった。ただ、授業で扱うには準備も必要だった。コンゴの歴史だけでなく、感染症に関する医学の基礎知識も要る。ニュースでは、先ずキャスターが、ザイールでエボラウィルスによって100名以上の死者が出て、更に36人以上の人が感染している状況を伝えて、現地の特派員に経過報告を求めている。特派員は先に、首都に危機が迫るなか、モブツ大統領が北東部の小さな村を訪問したことを伝え、次に密林の映像を映しながら、感染源が特定できていない状況を解説した。そして欧米から送られた国際医療チームの様子を映したあと、大統領が医療チームの費用は他の国で払うべきだと答えているインタビューを挟(はさ)み、流行を抑えるのが先決だが、真の解決策を見つ出すのは難しいと結んである。

 2分40秒余りの短い映像で、キャスターも特派員も原稿を読んでいるだけなので聞き取るのはそう難しくはないが、コンゴの歴史とエボラウィルスとアフリカと先進国の関係を知らないと、内容の理解は難しい。首都に危機が迫るなか、なぜ大統領が小さな村に行ったのか?なぜ大統領は医療チームの費用は他の国でと答えたのか?首都に危機が迫っているのに、遠くの小さな村を訪問したり、派遣された医療団の費用は他の国が払うべきだと日本の首相が答えるとは誰も思わないだろう。ではどうして大統領がそんな行動を取ったのか?

 日本の人でその大統領の行動に違和感を覚えた人はそう多くないと思う。一つはたいていの人はアフリカに関心がないからである。第3世界から搾り取っている先進国側にいて富を享受している自覚がないから、アフリカかわいそうという意識を持っている人が大半である。たくさんの学生と顔を合わせたが、それが現実である。開発や援助の名の下に、多国籍企業による資本投資と貿易で搾り取る今の社会の仕組みを理解する必要がある。それがわかれば、大統領が先進国と手を組んで私利私欲に明け暮れる実態がその仕組みの当然の帰結だとわかる。援助慣れした大統領がまたエボラ騒動を利用して先進国から金を集めるために、取材班を連れて20年前にエボラ騒動のあったところにでかけ、インタビューで無心を仄(ほの)めかしたのである。もう一つは。インタビューに使われたfinanceという言葉が瞬時に聞き取れた人が多くないという面もある。実際にはbe financed by other countries, not hisと受け身で伝えていた。まさか大統領がそんな行動を取っていたとは、平和ボケした日本にいる人には想像もつかない、それが現実だろう。

 すでに手元にあった資料「アフリカシリーズ」、『アフリカの闘い』、『レオポルド王の亡霊』に、新たに1976年の事態を知る手掛かりとして、リチャード・プレストンの『ホット・ゾーン』と衛星放送で録画した「人類の健康を守れるか?」というドキュメンタリーという貴重な資料を見つけた。

 短いCNNニュースだが、実際に英語の授業で扱ってみると、一般教育と医学を繋ぐ手懸かりの第一歩に相応しい素材だった。そこから更に展開して行けそうな気がした。