つれづれに:音声「アウトブレイク」(2024年4月26日)

つれづれに

つれづれに:音声「アウトブレイク」

 「アウトブレイク」は一般教養と医学を繋(つな)ぐ手懸かりを探していた私には、なかなかいい素材だった。まだ本格的に医学英語をやり始めていなかったが、その第一歩くらいにはなったと思う。感染症に関する医学用語を、どちらかというと実際よりは早めのスピードという設定で聴くことができたのだから。

陸軍がエボラウィルスで製造した生物兵器を、映画で脚色して内部告発したとしても、その映画に投資して莫大な利益を得た人たちがいたとしても、映画自体はテンポもよくておもしろく、医学的な知識と用語も満載だった。

宮崎医大講義棟、最初は4階で、後には3階で授業をした

 医学科の一般教育学科目の英語を担当し始めたが、医者や研究者には出来ない授業をしようと考えていたから、医学の知識は一向に増えなかった。しかし、気持ちは医学の方に向いていたので、エボラ出血熱を利用してウィルスや感染症についての知識は確認しておきたかった。その点では、映画を見ながら調べることも多かった。バイオセーフティ指針(Biosafety Level、BSL)という言葉もこの映画で初めて意識した。アメリカに戻って研究所にエボラウィルスの確認作業に研究所に出かけたとき、4つのレベルを英語字幕付きで紹介してくれている。SAMRIID(United States Army Medical Research Institute of Infectious Diseases)という研究所のレベル1:肺炎球菌(Pneumococcus)、サルモネラ菌(Salmonela)、レベル2:肝炎(Hepatitis)、ライム病(Lyme disease)、インフルエンザ(Influenza)、レベル3:炭疽(Anthrax)、チフス(Typhus)、ヒト免疫不全ウイルス(H.I.V.)の区域を通ってレベル4:エボラ(Eboa)、ラッサ(Lassa)、ハンタウィルス(Hanta virus)の区域に到着する設定である。それぞれの用語の発音は聞けないが、綴(つづ)りは確認できる。

レベル4のエボラの猛威については、アフリカへ行く途中の飛行機の中での遣り取り、実際の感染現場の村の様子と、この研究所の顕微鏡で覗いた世界で映像や音声として伝えてくれる。飛行機の中で中年の大尉ケイシーが年下の大尉ソールトに諭すように言い聞かせる。現地についても戸惑わないようにというお節介だろう。

エボラウィルスの顕微鏡写真

 ケイシー:最初患者がウイルス(virus)に感染したとき、インフルエンザに似た(flu-like)兆候(symptons)を訴え、その後2~3日で小さな膿疱(pustules)とともにピンクの病変(lesion)が出始める。まもなく膿疱は破裂して一種の乳液状の血と膿(うみ、pus)に‥‥

最後の言葉を遮り、年下の大尉が続けてかなりの早口で基礎知識を諳(そら)んじ始める。姿勢は直立不動である。

ソールト:病変が本格化する(full blown)と、触るだけでどろどろになりそうになる。嘔吐(おうと、vomitting)下痢(diarrhe)、それに鼻、耳、歯茎(gums)、目の出血(hemorrhage)が見られ、内臓(internal organs)が機能しなくなる。それらはまさに‥‥

防護服に身を固めた3人は村に到着して、そろりと建物の中に入ると、患者が目や鼻から出血して折り重なって死亡していた。初めての現場でソール大尉は吐きそうになり、防護服を外してしまう。隔離しろ、と叫ぶ主人公サムに、村人が「空気感染(airborn)はないよ」と語りかける。村人が3人を感染源の井戸に案内し、患者1号(the patient zero)の様子や致死率(the mortality rate)が100パーセントで、村全体がやられてしまった状況を語る。

研究所では、朝早くから待機していたソールト大佐が顕微鏡の映像を2人とサムの元妻に解説する。

 ソールト:ではみなさん、始めましょう。画像は8時間に渡って録ったものです。ウィルスに出遭う前の通常の健康な肝細胞です。1時間で一つの細胞が侵入して増殖し、細胞を死なせました。そして、たった2時間で、その増殖細胞が近くの細胞、ここにも、ここにも侵入して、果てしなく増殖し続けています。

ケイシーが思わず声をあげる。

ケイシー:こりゃすごい。5時間なんて。細胞に感染して複製し、すぐに細胞を死なせてしまう。やられた細胞の数はたぶん合ってる。エボラは数日間で細胞をこうしてだめにしてしまう。

 実際の授業では、4つの場面で聞き取りシートを作って演習をした。言葉を聞き取ってもらいながら、医学用語の使い方にも慣れればという気持ちもあった。あくまで、興味を持つ程度でしかなかったかも知れないが、「アウトブレイク」は一般教養と医学を繋(つな)ぐ手懸かりにはなった。その流れで、次に同じくウィルスによる感染症のエイズを取り上げたのだから。