つれづれに:混沌(2024年5月19日)

つれづれに

つれづれに:混沌(こんとん)

 →「『悪夢』」(↑)の続編である。タイトルは『失われた友を求めて』、悪夢から目覚めたあとの世界である。混沌(こんとん)という言葉が相応(ふさわ)しい。コバチュと補助員をマテンダの診療所に残したままキサンガニに戻ったカーターは、ボランティア活動を終えて帰国した。そして、再びシカゴの救急での忙しい日々が始まった。救急での現実も、マテンダとは違う意味だが、いつも死と隣り合わせである。気を抜けない緊張の日々が続く。ある日、職員の一人(↓)が受話器を取ったら、国際電話のようだった。電波が弱くて、音声がはっきりしない。しかし、緊急を要する案件のようだった。相手は、なかなか電話を切ろうとしない。マテンダでコバチュが死んだという知らせだった。

 ERが日本でも人気があったのは、小児科役のジョージ・クルーニーや、カーター役のノア・ワイリーのようなハンサムな俳優の影響もあるが、しゃれた設定というのもあるだろう。カーターは祖父がカーター財団を持つ大金持ちで、元奴隷を所有していた大農園主の末裔(まつえい)、臨床実習先のシカゴのERでの指導医が元奴隷の末裔で医師のベントン、なかなか気の効いた如何にも公民権闘争を経たアメリカという設定である。同僚たち(↓)は実習生のカーターを見て、みんなで楽しそうに冷やかす。

Dr. ベントン「おー、嘘だろ、見てみろよ!」

Dr. グリーン「オーダーの高級白衣だ」

Dr. スーザン「かわいい」

Dr. ロス「決まってる」

Dr. グリーン「腕はどうかな?」

Dr. ベントン「俺の学生だ」

 カーターはこの態度のでかいベントンに、散散に振り回される。ただ、ベントンは野心家で口は相当悪いが、腕は確かである。指導医に振り回されながらも、ベントンの先輩でもあるグリーンの陰ながらのサポートもあって救急の厳しい状況のなかで、カーターは色々と学んで行く。

 コバチュの訃報(ふほう)を知ったカーターは、金持ちのコネを使ってクロアチアの大使館に情報の確認をして、手当たり次第に顕微鏡や縫合セットや薬や注射針を大きなバッグに放り込んで、パリ経由のその日の便で再びコンゴに戻った。友の遺体を引き取るためだった。キンシャサではアメリカ大使館から紹介された国連や赤十字関係を尋ね歩いたが、成果はなかった。遺体の場所を発見するのは困難を極めた。大使館で、飛行機で隣り合わせになったアメリカ大使館の人を思い出して、訪ねて行く。国連や赤十字の事務所を回った経緯を聞いたあと、その人がカーターに言う。

「では、ドクター・カーター、これはお勧めしてるわけではありませんが、私の長年の経験では‥‥」

 カーターは現金2万ドルを持って、赤十字で働くキサンガニでのボランティア看護師の知り合いを訪ねた。その女性(↓)は赤十字で働いていたが、難しいと言われた。しかし、キブ州の負傷者のために派遣される医師に聞いてみると言ってくれた。

 キサンガニに戻り、そこからの遺体探しは困難を極めた。避難所を回り手懸(が)かりを探していたある日、マテンダの診療所でワクチンを打った少年の父親に遭遇する。そして、死体のある場所に辿(たど)り着く。小屋の中に積まれた死体は腐臭を放っていたが、体格の似た人を見つけた。俯(うつぶ)せになっていた死体を引っくり返すと、コバチュとは別人だった。

 付き添っていた兵士に写真を見せて、食い下がって居場所を聞くと「神父は別の場所に生きている」と、小屋まで連れて行ってくれた。小屋の入り口の側に、足を切断して手術した娘と母親も生きていた。そして、奥にコバチュが向こう向きに横たわっていた。カーターが頸(くび)の脈を取ると、まだ生きていたのである。

 逃げ惑ってマテンダの診療所に戻ったときに反政府軍が来て、コバチュたちも捕らえられた。他で捕らえられた人たちが集められ、女性はレイプされた。男性は一人一人銃殺された。

 最後にコバチュが残ったが、無意識に昔クロアチアで通っていた教会を思い出し、「神父」のように説教を始めたのである。凶暴な兵士も、神父だけは別らしい。コバチュの周りに伏せて、お祈りの姿勢を見せた。

 カーターは失われた友を求めてさ迷ったが、生きた友を見つけて、アメリカに送り返した。そこでは、この世のものとも思われぬ混沌とした世界が繰り広げられていたのである。