課題図書

概要

著『アフリカの蹄』(講談社、2000年)

 日本人外科医作田信は、心臓移植技術を学ぶために、南アフリカ共和国のヨハネスブルグの大学病院に派遣された。しかし、そこはアパルトヘイトが行われている国で、一方では白人の優雅で贅沢な生活があり、他方では黒人の貧しく、物同等の扱いを受けて人間として認識されない生活があった。そのような南アフリカの現状に作田は激しい怒りを覚える。
作田は、ブラック・スポットと呼ばれる黒人貧民街にある診療所に時々赴き、黒人医師サミュエルを手伝い治療に当たっていた。そんな中、子どもたちに発疹のある子が出始めた。発疹を作田の知人である白人医師レフ助教授の元で調べてもらうと、なんと絶滅したはずの天然痘のウイルスが発見された。ブラック・スポットの発病者と死者は黒人の子どもを中心に増加した。しかし白人の子どもには発病しない。これは、天然痘ウイルスを使用した黒人一掃計画の始まりだった。レフ助教授の父が白人用に貯えられていた天然痘ワクチンを密かに流してくれたが発覚し、作田の身にも危険が迫った。発疹から取り出し培養したウイルスと共に、黒人組織の手を借りて国外に脱出、国際社会に訴える機会を得た。しかし、共に戦ってきた黒人解放運動リーダーで、作田の恋人パラメの兄ニールは殺されてしまう。一方で黒人たちはワクチン要求などを掲げてゼネストを計画した。そのような流れで
衛生局長で黒人有害論を唱えるノーマン・フォックスらによる記者会見が開かれ、最初はノーマンのペースで進んだが、目覚めたレフ助教授の糾弾によって逆転した。そして、ついにWHOに天然痘ワクチンの製造が依頼された。ようやく戦いに終止符が打たれたのである。パメラや作田、多くの黒人や良識ある白人たちの無数の無抵抗デモ隊の歌声がヨハネスブルグに響き渡っていった。
(2005年度英語、医学部医学科一年 竹原彩美)

課題図書

概要

グギ・ワ・ジオンゴ著、松田忠徳日本語訳『夜が明けるまで』(門土社)

 舞台は独立直前のケニア、1950年代に起こったマウマウ闘争(反英独立闘争)の時代。ケニアの人々の圧政への抵抗を背景に、そこに生きる一人の少年の精神的成長が描かれている。
その少年ジョロゲは学問に憧れを抱き、教育を身につければ貧しい生活から家族を救うことも、白人の植民地と化した自分の国を変えることもできると信じている。彼の父ゴゾは入植者のもとで働きながら、奪われた祖先伝来のその土地が、再び自分に帰ってくる日のことのみを生きる糧として待ちつづけている。
情勢は日増しに悪くなり、破壊と暴力の日々が続く。ジョロゲの家庭にも暗雲が漂い、家族はバラバラになっていく。そんな中でもジョロゲは希望を捨てず、神を信じ、学問に明日の光を見出そうとする。しかしある事件によりジョロゲは学問を奪われ、父の死を目の当たりにすることになる。「あしたこそ」では答えにならない難問に初めて直面し、自分の無力さを痛感する。すべてを失い、死を望む心の声に惹かれながら、それでもジョロゲは残された家族や恋人のためにまた歩み始める。
(2005年度アフリカ文化論、農学部獣医学科 泉瑛子)

課題図書

概要

“The Colonization of Africa," Tamada Yoshiyuki, Africa and its Descendants (Mondo Books, 1995), pp. 6-27.

 アフリカは人類の発展のためにたいへん重要な地域であった。人々が鉄を精錬するようになって、大きな文明の飛躍があった。そして大規模な耕作が始まり、更なる飛躍があった。アフリカは様々な面でヨーロッパよりも優れていた。アフリカからもたらされる金は世界貿易の支払い手段として使われていた。しかし、中世以降ヨーロッパ人によってアフリカの優れた文明は破壊された。当初ヨーロッパの国々はアフリカと貿易を望んでいたがうまくいかなかったので武力でもってアフリカの富を略奪した。やがて奴隷貿易が始まりヨーロッパは富を蓄積し、産業革命の基盤となった。そしてアフリカの多くの国々が植民地となり住民は苦しい生活を送った。第二次大戦後アフリカの多くの国々は独立を果たした。しかし、多くの場合で新しい独立政府は旧来の経済体制を引きずっている。そして現在のアフリカは貧困、紛争など数多くの問題を抱えており植民地時代の負の遺産といえる。
(2005年度アフリカ文化論、農学部獣医学科 工藤敬幸)

課題図書

概要

グリ・ワ・ジオンゴ著、北島義信日本語訳『川をはさみて』(門土社、2002年)

 優雅で生命力溢れるホニア川はカメノ村とマクユ村を隔てつつも、二つの村を結びつける唯一のものだった。双方伝統、文化を重んじてきたが、キリスト教の浸透により対立が生まれる。カメノにうまれた高潔な青年ワイヤキは、キリスト教徒でありギクユ人としての生活文化を望むムゾニがギクユの伝統的儀式である割礼により命を落とすが、彼女の死により、二つの文化の融合・統一の課題を思索し始める。ワイヤキは何よりも教育の重要性を説き独立学校建設を通して、その具体化に邁進する。その途中で伝統・慣習を守るためには白人を追い出すべきという考えに至るも改宗者との対立や、その娘との恋、味方のワイヤキの才能への恐れや嫉妬などの苦難により具体的政治闘争に発展させることはできずに終わる。
(2005年度アフリカ文化論、農学部獣医学科 中間由規)