夜が明けるまで
概要
グギ・ワ・ジオンゴ著、松田忠徳日本語訳『夜が明けるまで』(門土社)
舞台は独立直前のケニア、1950年代に起こったマウマウ闘争(反英独立闘争)の時代。ケニアの人々の圧政への抵抗を背景に、そこに生きる一人の少年の精神的成長が描かれている。
その少年ジョロゲは学問に憧れを抱き、教育を身につければ貧しい生活から家族を救うことも、白人の植民地と化した自分の国を変えることもできると信じている。彼の父ゴゾは入植者のもとで働きながら、奪われた祖先伝来のその土地が、再び自分に帰ってくる日のことのみを生きる糧として待ちつづけている。
情勢は日増しに悪くなり、破壊と暴力の日々が続く。ジョロゲの家庭にも暗雲が漂い、家族はバラバラになっていく。そんな中でもジョロゲは希望を捨てず、神を信じ、学問に明日の光を見出そうとする。しかしある事件によりジョロゲは学問を奪われ、父の死を目の当たりにすることになる。「あしたこそ」では答えにならない難問に初めて直面し、自分の無力さを痛感する。すべてを失い、死を望む心の声に惹かれながら、それでもジョロゲは残された家族や恋人のためにまた歩み始める。
(2005年度アフリカ文化論、農学部獣医学科 泉瑛子)