アフリカ系アメリカ小史②奴隷解放

2020年2月25日2010年~の執筆物アフリカ系アメリカ

概要

前回は「アフリカとその末裔たち」(Africa and its Descendants 1)の3章「アメリカ黒人小史」(A Short History of Black Americans)の①で、①北米に渡ったイギリス人入植者の繁栄の基礎となった奴隷貿易と②奴隷制について書きました。

今回は、奴隷解放について書こうと思います。奴隷制を元にのし上がった南部の奴隷主と、北部に新たに台頭し始めた産業資本家が奴隷の労働力を巡って起こした市民戦争―北部と南部に分かれて戦った南北戦争の結果、法制上生み出された奴隷解放についてです。

本文

① 奴隷解放

奴隷貿易のよって蓄積された資本を元に起こった産業革命によって、人類社会には大きな変化が起こりました。それまでの農業中心の社会から、産業を主体とした社会に姿を変え始め、資本主義社会に向けての進度が急速に速まりました。人類は経済格差がますます激しくなる、今の大量消費の産業社会に向けてまっしぐらに進み始めたわけです。

それまで手で作られていたものが機械で作られるようになったわけですから、人類は使い切れないほど大量の工業製品を生み出すようになりました。資本主義は拡大せずには済まない制度ですから、必然的に溢れる製品を売りさばくための市場と、さらに生産するための安価な原材料と、工場で働く安価な労働力が必要になりました。

奴隷と奴隷制で潤ってきた南部の奴隷主(大荘園主)は、民主党を作って南部の北の端にある首都ワシントンに代々自分たちの意見を反映してくれる代弁者として大統領を送り込んで富を独占してきましたが、産業革命以降急速に力をつけてきた北部の産業資本家は新たに共和党を作り、自分たちの意見を代弁してくれる政治家を議会に送り込もうとしました。

奴隷を保持して既得権益の死守をはかろうとする南部の寡頭勢力(アングロサクソンを中心としたいわゆるコンサーバティブと呼ばれる保守勢力)と、奴隷制を廃止して奴隷を自由市場に流して安価な労働者として使いたいと渇望する北部の産業資本家の利益が真っ向から対立したわけです。国を二分して争う、いわゆる市民戦争、それが1861年に始まった南北戦争の実態です。

大統領選挙では大方の予想を裏切って、1860年にエイブラハム・リンカーンが大統領になりました。それはつまり、北部の資本家が自分たちの代表を一国の大統領としてワシントン特別区へ送り込むことに成功したということです。その結果、選挙前からの予定通り、南部は直ちに合衆国を脱退して南部諸州連合を創りました。南北戦争が始まったのは、そのすぐあと1861年です。

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(エイブラハム・リンカーン)

大統領となったリンカーンに課された命題はただ一つ、南北の合一でした。リンカーンは「1861年1月1日までに戦争が終わらなければ奴隷制を廃止する」という趣旨の予備宣言を出して北部黒人の参戦を促し、その助けを借りて、何とか北部(共和国軍)を勝利に導きました。戦争は1865年まで続いたために、結果的には法制上奴隷制が廃止されました。

しかし、突然奴隷でないと言われても、元奴隷は北部に移動しようとすると元奴隷主に雇われた貧乏白人の警ら係に捕まって相変わらず厳しく罰せられるし、土地もなく仕事もなく金もなく、結果的には現物支給の奴隷同然の小作人(sharecroppers)になるしかありませんでした。実質的な奴隷解放は百年後の公民権運動まで持ち越されました。

小作人(sharecroppers)

1859年にジョン・ブラウンが黒人、白人を含む22名とともに、ヴァージニア州の政府の兵器庫を襲いました。結局は捕らえられてジョン・ブラウンは絞首刑になりましたが、その蜂起は奴隷制の根幹から揺るがしました。

首謀者が白人だったこと、周到に準備されて武装蜂起を企てたこと、総勢23名で政府軍を導入しても鎮圧に二日もかかったこと、隣国ハイチでは奴隷の反乱軍が政権を樹立していたことなどが原因でした。

その蜂起は奴隷に勇気を与え、奴隷主に恐怖を与えました。ジョン・ブラウンは絞首刑にされましたが、南北戦争が始まるのも時間の問題でした。ジョン・ブラウンの歌は北軍の軍歌として黒人部隊で歌われたと言われています。日本では「ごんべさんの赤ちゃんがカゼ引いた そこであわててシップした♪」のメロディーで親しまれています。(「共和国の戦いの賛歌」が原曲のようです。)

ジョン・ブラウン

前回と今回で紹介した内容は、アフリカ系アメリカ人作家アレックス・ヘイリー(1921~1992)のテレビドラマ「ルーツ」に詳しく描かれています。

おばあさんの話を元に図書館などで調べて7世代さかのぼり、西アフリカガンビアを訪れてグリオ(歴史の語り部)の口から直接自分の祖先のクンタ・キンテが奴隷狩りにあってアメリカに連れて来られたことを聞き出し、その子孫の苦難の歴史を綴って本にした「ルーツ」を元に1977年に放映されたテレビドラマです。日本でも翌年に放送されました。30周年記念にDVDも出ています。

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(30周年記念のDVDの表紙)

次回は「アフリカ系アメリカ小史③再建期、反動」です。(宮崎大学医学部教員)

アフリカ系アメリカ小史②では、「奴隷解放」(EMANCIPATION)について、英文で書きました。日本語訳もつけた全文は→ https://kojimakei.jp/tamada/works/africa/ZimHis9.docx(画面上に出てくるZimHis9.docxです。)アドレスをクリックすれば “A Short History of Black Americans” in Africa and Its Descendants「アメリカ黒人小史」:『アフリカとその末裔たち』(Mondo Books, 1995; 2009; Chapter 3, p. 78)のワードファイルをダウンロード出来ます。

『アフリカとその末裔たち』

執筆年

  2014年4月10日

収録・公開

  →「アフリカ系アメリカ小史②」(No. 68  2014年4月10日)

ダウンロード・閲覧(作業中)

  「アフリカ系アメリカ小史②」