ほんやく雑記①漁夫の波止場

2019年5月18日2010年~の執筆物ほんやく雑記

概要

ほんやく雑記の1回目で、HNKBS(衛星放送)で放映された旅番組のなかで案内されたサンフランシスコの観光地「漁夫の波止場」(Fisherman’s Wharf)の一場面を取り上げ、①日本語と英語の違いを理解してどう表現するか、②抽象的な内容をどう表現するか、について書きました。

本文

ほんやく雑記を始めます。

英語から日本語のほんやくについて書きたいと思います。毎回ある場面を取り上げて、あれこれを気軽に書いていきたいと思っています。

今回はサンフランシスコの名所漁夫の波止場(Fisherman’s Wharf)の一場面で、①日本語と英語の違いを理解してどう表現するか、②抽象的な内容をどう表現するか、です。(写真1:漁夫の波止場1)

1990年頃にNHKの衛星放送で録画したオーストラリアの放送局制作の旅番組からです。毎回3つの街をそれぞれ7~8分程度で紹介する旅シリーズで、医学部の英語の授業で使うために録り始めました。

1980年代に何度かアメリカに行ったとき、毎回サンフランシスコに何泊かして東部か南部に移動しましたので、冒頭に紹介されているゴールデンゲートブリッジ(金門橋)や、坂やケーブルカー、漁夫の波止場やチャイナタウンなど、記憶の断片と照らし合わせながら楽しめました。

1950年代に普及し始めたテレビにはハリウッドなどの「アメリカ」がどっと押し寄せ意識のなかに染みこんで来て、一度はゴールデンゲートブリッジやナイアガラの滝やエンパイアステイトビルディングに行ってみたいと漠然と思っていたようです。ゴールデンゲートブリッジは一度歩いて渡ったことがあります。45分ほどかかったような気もしますが、30年以上も前のことですのでいささか怪しいです。

トニー・ベネット(Tony Bennett)の「思い出のサンフランシスコ」(I left my heart in San Francisco)の歌とともにゴールデンゲートブリッジが映し出されたあと、案内役の男性が漁夫の波止場を訪れて次のように解説します。

These are the first sounds of a perfect morning. The dawn chorus from Pier 39, sealions defending territory. You have to be early to catch this dreamy mood, because in a couple of hours, Fisherman’s Wharf changes dramatically.

Each day sees an invasion. Ten and a half million come each year to Pier 39 alone to walk, eat or just gawk at the buskers.

Some are good, others well.., but it doesn’t matter. This is a city where there is no cardinal sin and tolerance is the virtue.

  • 日本語と英語の違いを理解してどう表現するか

まずは”Each day sees an invasion.”をどうほんやくするかです。日本語と英語の構造的な違いを示す好例です。日本語ではEach dayは無生物ですからseeの主語にはなりません。構造的にはWe see an invasion each dayの方がしっくりときます。invasionは一般的には侵入という意味ですが、ここでは他から(人が)やって来るという意味でしょう。もちろんそれは次のTen and a half million comeから容易にわかります。これは映像ですから、その内容を音声や映像から瞬時に推し量る必要があるわけです。オーストラリア流にdayがダイ、invasionがインヴァイジョンと発音されていますので、実際には少し慣れないととっさには理解出来ない可能性もあります。それらを考えに入れると「毎日外からたくさんの人がやって来ます。」くらいのところでしょうか。

  • 抽象的な内容をどう表現するか

次は”tolerance is the virtue.” toleranceは一般的には忍耐ですが、ここでは寛容、(心が)寛いという意味でしょう。virtueは美徳、ここでは判断の基準くらいでしょうか。色んな人がいますが(Some are good, others well..,)、誰も気にしません。(it doesn’t matter.)世俗的な罪(cardinal sin)などない街ですから。それに続く文章です。映像では街芸人(buskers)の演技を人々がぼんやりと見ながら楽しんでいる(gawk)、自由きままで何でもありなんですよ、この街は、とそんなところです。

「何でも許されます、それがこの街の良さですから。」くらいでしょうか。

ほんやくするには、二つの言語の違いを認識する、前後の文脈から推し測かる、その文章が何のために書かれたか、などを考えに入れる必要があるようです。

気軽に楽しむ旅番組ですので、楽しめるほんやくもこの場合、必要でしょうね。

医学科6年生はカリフォルニア大学のアーバイン校で1ヶ月の臨床実習に行っています。英語分野ではそのための英語講座(EMP, English for Medical Professionals)を担当していますが、渡米直前に聴き取りの練習をしたとき、この映像を使いました。その授業にいた一人が「昨日・一昨日とサンフランシスコに行って来ました。先生が授業でお話されていた所ですよね。」と写真を二枚送ってくれました。実習でもお世話になりホームステイもさせてもらっている小児科医のペニー・ムラタさんに連れて行ってもらったようです。今回はその写真を使っています。(写真2:漁夫の波止場2)

執筆年

2016年

収録・公開

「ほんやく雑記①「漁夫の波止場」」(「モンド通信」No. 91、2016年3月22日)

ダウンロード

2016年3月用ほんやく雑記1(pdf 310KB)