『ナイスピープル』理解22:シンポジウム『アフリカとエイズを語る』報告1

2020年2月29日2010年~の執筆物アフリカ,医療

概要

エイズ患者が出始めた頃のケニアの小説『ナイスピープル』の日本語訳(南部みゆきさんと日本語訳をつけました。)を横浜門土社のメールマガジン「モンド通信(MonMonde)」に連載したとき、並行して、小説の背景や翻訳のこぼれ話などを同時に連載しました。その連載の22回目で、2011年度に開催したシンポジウム『アフリカとエイズを語る』の報告、6回シリーズの1回目、についてです。

アフリカの小説やアフリカの事情についての理解が深まる手がかりになれば嬉しい限りです。連載は、No. 9(2009年4月10日)からNo. 47(2012年7月10日)までです。(途中何回か、書けない月もありました。)

『ナイスピープル』(Nice People

本文

シンポジウム『アフリカとエイズを語る』報告(1)

天満氏によるポスター

→シンポジウム報告書『アフリカとエイズを語る』(作業中)

2011年11月26日に宮崎大学医学部で開催したシンポジウム「アフリカとエイズを語る―アフリカを遠いトコロと思っているあなたへ―」を何回かにわけてご報告したいと思います。(「『ナイスピープル』を理解するために」の解説として)

発表者は北海道足寄我妻病院の医師服部晃好(はっとりあきよし)氏と、宮崎大学の医学部6年生の天満雄一(てんまゆういち)氏、5年生の小澤萌(おざわもえ)さん、4年生の山下創(やましたそう)氏と私の5人で、「翻訳こぼれ話」を連載中の南部みゆきさんが司会進行役でした。(各自の写真はそれぞれの報告の時に掲載します。)

左から服部、山下、玉田、南部、天満、小澤の各氏

文部科学省科学研究費の交付を受けた「アフリカのエイズ問題改善策:医学と歴史、雑誌と小説から探る包括的アプローチ」(平成21年度~平成23年度)の成果を問うためのシンポジウムで、アフリカに滞在経験のある4人に協力を仰いでシンポジウムが実現しました。

天満氏の提案に私が加筆する形で、案内のポスターには「アフリカに滞在した経験のある5人が、アフリカを遠いトコロと思っているあなたに、生物学的、医学的一辺倒な見方ではなく、病気をもっと包括的に捉えて、アフリカとエイズを語ります。」と解説をつけました。

過去に連載した『ナイスピープル―エイズ患者が出始めた頃のケニアの物語―』の日本語訳も、解説「『ナイスピープル』を理解するために」も「生物学的、医学的一辺倒な見方ではなく、病気をもっと包括的に捉えて、」アフリカのエイズ問題を問い直そうと考えて書いたものです。きっかけはレイモンド・ダウニング氏の著書『その人たちはどう見ているのか?―アフリカのエイズ問題がどう伝えられ、どう捉えられて来たか―』を読んで心を動かされたからです。

ダウニング著『その人たちはどう見ているのか?』

ダウニング氏はアフリカでの生活の方が長く、日々エイズ患者と向き合っていたアメリカ人の医師です。欧米の抗HIV製剤一辺倒のエイズ対策には批判的で、病気を社会や歴史背景をも含む大きな枠組みの中で考えるべきだと主張しました。大半のメディアを所有する欧米の報道を鵜呑みにせずに、アフリカ人の声に耳を傾けるべきだと提言しています。その提言は、アフリカで長年医療に携わった経験に裏付けられたものだけに極めて示唆的でした。

アフリカ系アメリカ人の文学がきっかけでアフリカの歴史を追って30年近く、医科大学で医学にも目を向けるようになって20年余り、結論から言えば、アフリカのエイズ問題に根本的な改善策があるとは到底思えません。なぜなら、イギリス人歴史家バズゥル・デヴィドスン氏が指摘するように、根本的改善策には大幅な先進国の譲歩が必要ですが、現実には譲歩のかけらも見えないからです。しかし、学問に少しでも役割があるなら、大幅な先進国の譲歩を引き出せなくても、小幅でも先進国に意識改革を促すような提言を模索し続けることだと思います。僅かな希望でも、ないよりはいいのでしょうから。

バズゥル・デヴィドスン

アフリカ文学とエイズをテーマに「英語によるアフリカ文学が映し出すエイズ問題―文学と医学の狭間に見える人間のさが」(平成15年度~平成18年度)で科学研究費の交付を受けていますので、その延長でダウニング医師の提言に応えるべきだと考えて今回の科学研究費を申請しました。前回(2004年)は、(旧)宮崎医科大学の大学祭に便乗してシンポジウム「アフリカのエイズ問題-制度と文学」を開催しました。医学科の国際保健医療サークルの人たちや(旧)宮崎大学農学部獣医学科の学生といっしょに準備をして、四国学院大学のサイラス・ムアンギさんと医師の山本敏晴さんを招いていっしょに発表しました。

報告書「英語によるアフリカ文学が映し出すエイズ問題―文学と医学の狭間に見える人間のさが」

シンポジウムポスター

今回の発表は、服部晃好:「HIV/AIDSとアフリカ:東アフリカでの経験から考える」→玉田吉行:「アフリカと私:エイズを包括的に捉える」→山下創:「ウガンダ体験記:半年の生活で見えてきた影と光」→小澤萌:「ケニア体験記:国際協力とアフリカに憧れて」→天満雄一:「ザンビア体験記:実際に行って分かること」の順で行ないました。

次回は最初の発表(服部晃好:「HIV/AIDSとアフリカ:東アフリカでの経験から考える」)のご報告をしたいと思います。

出席者は少なかったのですが、毎日新聞の石田宗久記者が来て下さり、翌日の新聞に報告記事を掲載して下さいました。後ほどご紹介したいと思います。

石田記者

毎日新聞の報告記事

『ナイスピープル―エイズ患者が出始めた頃のケニアの物語―』(No. 5[2008年12月10日)~No. 34(2011年6月10日)までの30回連載]は「日本語訳『ナイスピープル』一覧」(→「玉田吉行の『ナイスピープル』」、解説(1)~(21)は「『ナイスピープル』を理解するために」一覧」(→「玉田吉行の『ナイスピープル』を理解するために」=どちらも元は「小島けい絵のブログ」)にまとめてあります。(宮崎大学医学部教員)

執筆年

2012年2月10日

収録・公開

「モンド通信 No. 42」

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(作業中)