つれづれに:エイズ(2024年8月30日)

2024年9月3日つれづれに

つれづれに:エイズ

 今回からエイズ関連の連載である。コンゴとエボラ出血熱、南アフリカに続く最終回になる。

「サンフランシスコ」(↓)で初めてエイズ患者が出た1981年7月には、私もサンフランシスコの街にいた。しかし、全く知らなかった。エイズの報道もなかったし、医学に関心が向いていなかったからだろう。1992年にジンバブエ大学で知り合った英語科の教員が「エイズに感染した地方の女性のドキュメンタリーを撮ったので観ますか?」と誘ってくれたときも、滞在期間が短く時間的な余裕がなかったのと、まだエイズに関心がなかったので機会を逃している。返す返すも、心残りである。のちに、医学科で英語の授業をして、そこでエイズを取り上げることになるとは、初めてサンフランシスコの街を歩いた時には夢にも思わなかった。世の中、なにが起こるかわからないものである。

 前回「担当が一般教育の英語学科目だったから、当初は医者には出来ないことをと意識してやってみたが、どうもしっくりいかなかった。医者や研究者になろうと入って来た人たちだから、やっぱり医学的な側面も取り入れる方が自然な気がして、エイズとエボラ出血熱、しばらくしてから医学用語もやり始めた」と書いたが、実際に始めてみるとなかなか骨が折れた。元々医学に特に関心はなかったし、科学の知識が皆無に近かったからである。当たり前であるはずの前提を理解するにも、時間がかかった。ただ、元々人が何かを教えられるとも思っていなかったので、わからない時は未来の医学生に教えてもらおうとは思っていた。素人ならではの逃げ口である。後先を考えないで、先ずはエイズとエボラを遣り始めた。

エイズは一体どんな病気なのか、何が原因なのかを最初に考えた。本腰を入れ出したのは1990年の半ばで、医学科で授業を始めてから7、8年が経っていた。調べてみると、普通の病気とは少し違うようだった。普段意識にある病気の概念は、たとえば喉(のど)がいがいがして、くしゃみが止まらないと風邪気味だな、気をつけようという感じだ。しかし、エイズは、原因はウイルスだが、感染して免疫力が著しく低下して普通は罹(かか)らない重症な感染症やがんを併発するようになる病気(↓)である。したがって、ウイルスに感染してもエイズという病気になったわけではなく、免疫力が落ちて他の病気を併発したときに、エイズという病気を発症したというわけである。

病名は後天性免疫不全症候群、英語ではAcquired Immuno-Deficiency Syndrome、その頭文字を取ってAIDSが英語の病名、日本語ではエイズである。ウィルスはヒト免疫不全ウイルス、英語ではHuman Immunodeficiency Virus、同じくその頭文字を取ってHIVまたはHIVウィルスと表記される。

 英語の授業の対象者は医学科1年生で、授業は前期か後期の15回、一般教育の1教科で必修科目。1年生なので、まだ基礎医学や臨床医学はやっていなかった。中高では英語の用法や購読やリスニングを中心に間違わないようにやって来ているので、実際に使える人はそう多くない。元々言葉は使うためのものだから、間違わないようにと一方的にやられてただただ覚えても、実際には言葉としてそのままは使えない。間違ってはいけない、間違ったら恥ずかしいという意識が却って邪魔になって、実際にはしゃべれない場合が多い。医学科の場合、マークシート方式のセンター試験で9割くらいは取るので、自分は英語が出来ると錯覚している人も多い。もちろん、一度大学を出た→「既卒組」や、親の関係で海外の経験がある人も結構いるので、その人たちは最初から英語が使える。国際基督教大(ICU)の既卒者が何人かいたが、どの人も英語が出来て、使えた。さすがである。その条件下での授業である。一般教養が主体なので、医学問題もその一つ、概(おおむ)ねそんな感じである。

医大の講義棟(最初は4階で、あとは3階で授業をやった)

 エイズとエボラをそれぞれ4回前後くらいか。時間も限られているのでエイズに関しては、HIVの増幅のメカニズム、簡単なエイズ発見の歴史、社会問題として:アメリカ(エイズ会議、抗HIV製剤、HIV人工説)、アフリカ(欧米・日本の偏見、ケニアの小説、南アフリカ)を大体4~5回で取り上げた。英文を誰かにやってもらったり、各項目の発表を何人かにしてもらったり、それとたくさんの資料と映像。盛沢山(もりだくさん)だった。それと、医学用語(ウィルス、血液、免疫機構)も織り交ぜた。英文をたくさん読むので、医学用語は不可欠だった。9割ほどがギリシャ語、ラテン語由来なので初めは馴染(なじみ)がないが繰り返し使えば慣れる。生体病理検査の所見が英語だし、カルテなどでも要るので、やっておいて損はない。日本語で使われている発音と違う場合も多いので、発音は演習を交えながら丁寧にやった。

本格的にするようになった時に使った『医学用語8版』

そんな感じで、医学科のエイズの授業を始めた。次回はウィルスである。