『ナイスピープル』理解21:「ニューアフリカン」:エイズの起源4 米国産の人工生物兵器としてのウィルス

2020年3月1日2010年~の執筆物アフリカ,医療

概要

エイズ患者が出始めた頃のケニアの小説『ナイスピープル』の日本語訳(南部みゆきさんと日本語訳をつけました。)を横浜門土社のメールマガジン「モンド通信(MonMonde)」に連載したとき、並行して、小説の背景や翻訳のこぼれ話などを同時に連載しました。その連載の21回目で、「ニューアフリカン」:エイズの起源(4)米国産の人工生物兵器としてのウィルス、についてです。

アフリカの小説やアフリカの事情についての理解が深まる手がかりになれば嬉しい限りです。連載は、No. 9(2009年4月10日)からNo. 47(2012年7月10日)までです。(途中何回か、書けない月もありました。)

『ナイスピープル』(Nice People

本文

『ニューアフリカン』:エイズの起源(4)米国産の人工生物兵器としてのウィルス

雑誌「ニューアフリカン」

今回は「エイズの起源」の4回シリーズの最終回で、「米国産の人工生物兵器としてのウィルス」についてです。

編集長のバッフォ・アンコマーは「ニューアフリカン」で早くからエイズが人工的に生み出された病気だと主張して来ました。信頼のおける科学者に依頼してその根拠を示し、判断は読者に委ねました。原稿を依頼された一人が米国の皮膚科医でエイズと癌の研究者アラン・キャントウェルJrです。キャントウェルは、男性同性愛者に接種されたB型肝炎ワクチンの影響でエイズ患者が生まれ、HIVは癌研究を隠れ蓑に米国政府が継続した生物兵器の開発実験の過程で生み出された人工ウィルスである疑いが濃いと結論づけています。

バッフォ・アンコマー

1978年11月にニューヨーク市で男性同性愛者にB型肝炎ワクチンの接種実験が行なわれたすぐ後に、エイズ患者が大量に出始めたのは事実です。接種実験を実施したのはポーランド系ユダヤ人医師のウォルフ・シュムーニス(Volf Szmuness)で、第二次大戦中、政治犯としてシベリアに連れて行かれた人物です。戦後釈放され、中央ロシアで医学部に入り、1959年にはポーランドへの帰国許可が出て、公衆衛生を専門に肝炎の専門家になりました。1968年に家族でニューヨークに亡命し、1968年にニューヨーク市血液センターに技師として採用されたのち、コロンビア大学に招かれ肝炎の世界的な権威になっています。

性の解放が叫ばれた1970年代初期には男性同性愛者の間で性感染症、特にB型肝炎が急速に拡大して当局の懸念が大きくなり、シュムーニスが開発中のワクチンが実験的に接種されたわけです。シュムーニスは治験の対象に高学歴の白人で、性的に活動的な男性同性愛者を選びました。治療費などで優遇しましたので、志願者を難なく集め、CDC(米国疾病予防管理センター)、NIH(米国国立衛生研究所)や大手の製薬会社の協力を得て治験を実施しました。1978年の11月にマンハッタンのニューヨーク市血液センターで第一グループの1083人にワクチンが接種され、翌年の10月まで治験が続きました。96%の成功率を収めましたが、3ヶ月後の一月に若い白人の男性同性愛者が原因不明の病気になりました。1980年の3月には、CDCの監督の下に、サンフランシスコ、デンバー、セントルイス、シカゴで1402人へのワクチン接種が継続され、その秋にサンフランシスコで最初のエイズ患者が出ました。

CDC(「エイズの時代(3)カクテル療法の登場」、2006年12月20日NHKBS1)

アフリカ人やアメリカの同性愛者のHIV感染源としてワクチン接種に最初に注目したのは米国人医師ロバート・ストレクターで、「エイズは実験室のウィルスを遺伝子操作して造られた病気で、そのウィルスが故意に、或いはたぶん偶発的に、世界の人口を制御するための殺人因子として人間集団に注入された」と指摘しました。政府の遺伝子組み換えによる超強力細菌兵器開発計画疑惑については、前号の<20>→「『ナイスピープル』を理解するために―(20)『ニューアフリカン』:エイズの起源(3)アフリカの霊長類がウィルスの起源」「モンド通信 No. 40」、2011年12月10日)で、「遺伝子操作で、細菌に対して免疫機構が働かなくなる、極めて効果的な殺人因子となる超強力細菌の開発は可能である」と1969年に医師ドナルド・マッカーサーが国会で証言したこと、国立癌研究所が生物兵器開発研究の批判をかわすために1971年に大統領ニクソンが米国陸軍生物兵器研究班の主要な部分を移した施設であったこと、アフリカ起源説を主張するギャロやエセックスが学問的に重大な間違いをおかしたにもかかわらず政府や製薬会社やマスコミに守られたことなどについて書きました。シュムーニスによる男性同性愛者へのB型肝炎ワクチンの接種実験がCDCやNIHや製薬会社と連携した癌研究の一環であり、1971年以来癌研究を隠れ蓑に生物兵器の研究が続けられたことを考えれば、HIVが人工的に米国政府に造られたウィルスであるという主張は空論ではありません。(キャントウェルは、後に政府によって公開された情報から、1940年代の冷戦時代の初めから70年代まで政府が秘密裏に行なった放射能実験が著名な大学で実施され、非常に高い評価を受けている医者や科学者が研究に関わっていた事実が明るみに出たこと、犠牲者がしばしば貧乏人や病気の人、恐らくはアフリカ系アメリカ人やいわゆる「アメリカインディアン」に多いことから推測すれば、エイズについてもその可能性は極めて高いと指摘しています。)

製薬会社や政府と密接な関係にあり、資金提供も得ている主流派は「米国産の人工生物兵器としてのウィルス」を「陰謀説」と切り捨てますが、資金獲得のためには製薬会社はもちろんのこと研究者やNGO、国連さえもエイズ患者やHIV感染者のデータを水増しして利用して来た、などの根本にも関わる政治的な思惑や経済的な絡みなど、これまでの歴史的な経緯を総合的に判断すると、HIVが米国で人工的に作られたウィルスである可能性は高いと言わざるを得ません。

製薬会社(「エイズの時代)

次回からは、11月に宮崎で行なったシンポジウム「アフリカとエイズを語る」についての報告記事をシリーズ(「ナイスピープルを理解していただく為に」)でお伝えしたいと思います。(宮崎大学医学部教員)

執筆年

  2011年12月10日

収録・公開

  →「モンド通信 No. 40」

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