つれづれに:年老いたライリー(2022年10月16日)
つれづれに:年老いたライリー
ヒューズは詩人だが、小説や自伝、児童書や民話、劇やミュージカルの台本、フォト・エッセイやドキュメンタリーなどかなり広範囲の作品を残している。この「黒人史の栄光」(↑、“The Glory of Negro History,” 1964)でも物語風の歴史のなかにたくさんの詩や歌や奴隷体験記などを盛り込んでいる。「深い河」、「下り行け、モーゼ」、「ジェリコの戦い」、「そっとお行きよ」はすでに紹介したが、別のスピリチャル「静かに軋れ、素敵な四輪馬車」と「年老いたライリー」の2曲についても書いておきたい。表だった歴史には残らないような奴隷の話と歌である。ここでも白人の歌詞「天国に」(home)は奴隷たちには自由の地(to the North, to freedom)で、四輪馬車(chariot)は自由の地、北部に運んでくれる四輪馬車(the chariot of freedom)だった。
静かに軋れ、素敵な四輪馬車
素敵な四輪馬車よ、静かに軋れ / そして私を天国に連れて行っておくれ。 / 静かに軋れ、素敵な四輪馬車 / 私を天国に連れて行っておくれ・・・・・
SWING LOW, SWEET CHARIOT
Swing low, sweet chariot, / Comin’ for to carry me home. / wing low, sweet chariot / Comin’ for to carry me home…….(註:Swingは命令形。Comin’ for to carry me home= Coming to carry me home)
後に、北部に逃亡した人たちが、組織的に協力して南部に戻って戻って奴隷を北部に運ぶようになっていくが、最初は一人で逃げた。そんな逃亡奴隷の一人を歌い、語り継がれている歌が「年老いたライリー」である。「とうもろこし畑を七面鳥のように」逃げたライリーという名前の奴隷と臭いを嗅げないラトラーという名前の猟犬についての歌で、言い方は悪いが、何となく軽快で、微笑ましい感じの曲である。しかし実際には、逃げる老人も猟犬も命がけだ。
年老いたライリー
ライリーは川を渡った。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / 年老いたライリーは川を渡った。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / ライリーはとうもろこし畑を七面鳥のように行ってしまった。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / ライリーはとうもろこし畑を七面鳥のように行ってしまった。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / 年老いたラトラーは私が角笛を吹くとやって来る。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / 年老いたラトラーは私が角笛を吹くとやって来る。 / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / プゥーッ、プゥーッ、プゥーッ! / こっちだ、ラトラー、こっちだよ! / プゥーッ、プゥーッ、プゥーッ! /
こっちだ、ラトラー、こっちだよ…
OL’ RILEY
Riley walked de water. / Here, Rattler, here! / Ol’ Riley walked de water. / Here, Rattler, here! / Riley’s gone like a turkey through de corn. / Here. Rattler, here! / Ol’ Riley’s gone like a turkey through de corn. / Here, Rattler, here! / Ol’ Rattler come when I blow my horn. / Here, Rattler, here! / Ol’ Rattler come when I blow my horn. / Here, Rattler, here! / Tootl Toot-toot! / Here, Rattler, here! / Toot! Toot-toot! / Here, Rattler, here . . .(註:OL’ RILEY=Old RILEY, walked de water=walked across the river)
「静かに軋れ、素敵な四輪馬車」はテネシー州のある黒人女性が歌い出したといわれる。スピリチュアルの一つで、テネシー州のフィスク大学で1870年代に活動していた「ジュビリー・シンガーズ(↓、the Jubilee Singers)」によって広められたスピリチュアルの一つである。ウェブでもたくさんの資料や動画がたくさん紹介されている。フィスク大学は有名な黒人大学で、黒人研究の会でいっしょだった人が、在外研究のために滞在していたと聞いたことがある。
「年老いたライリー」は資料も少なく、リード・ベリー(↓、Lead Belly)の曲が聴ける程度である。当時はもっと人に歌われていた曲だろう。『有名なアメリカの黒人』、『有名なアメリカの黒人音楽家』、『有名なアメリカ黒人の英雄』という自伝も書いているので、数多くの歌や話の中から「黒人史の栄光」の中に相応しい曲を選んだわけである。ヒューズの優しい気持ちが伝わって来る。