つれづれに:トランプ3(2026年2月6日)
つれづれに:トランプ3

2月に入ってからは、アメリカ関連を突如中止して、日常のこまごましたことを書いた。今回は現アメリカ大統領のトランプ(↓)の話である。→「トランプ2」とその前の4回(→「ソウル」、→「南北戦争のあと:政治篇」、→「経済篇1」、→「経済篇2」)のアメリカ関連の続編でもある。
トランプがなぜ大統領に選ばれたのかが長いあいだ釈然としなかったのに、政党の戦略と金持ち層の動きを考えて、最近なんだかわかるような気がしてきたと前回書いた。視界が開け始めたのは、選挙後半の党の獲得した州を示す青と赤のアメリカ地図の南部一帯が、突如、共和党の赤一色になった時だった。

「南部は共和党やなかったけ?」と一瞬思ったが、そう気に留めなかった。南部戦争を理解するときに、たしか民主党を代弁者にしようと南部寡頭勢力がワシントンに送り込んだ大統領候補が代々大統領になっていたはずだが。そんな程度の認識だった。赤狩りのあと、民主党が巻き返して若きケネディが大統領になり、暗殺されたあとも副大統領が公民権成立に尽力したことについては前回書いたが、基本的に公民権以降のアメリカの歴史の流れは考えなかった。

出版社の人にアフリカ関連の記事や本などを次々に言われて、それどころではなかったからである。本1冊訳すだけでも、少なくとも丸々2年もかかる。ケニアの作家の評論を訳すように言われたときは、ケニアの政治事情に加えて、韓国の詩人の書いた反体制の詩に、アフリカ系アメリカの文学までが範囲だった。ケニアと韓国の歴史は初めからしないといけないし、アフリカ系アメリカの文学にしても特定の僅かな作家しか知らなかった。公民権運動のその後までまわらなかったのが正直なところである。

グギ・ワ・ジオンゴ『作家、その政治とのかかわり』
英語を使える機会にとリモートを使って4人で集まっているが、そのテーマがアフリカ系アメリカ。それもあって、最近になって公民権運動後についても考えるようになった。それで、政党の戦略についても考え始めたわけである。政治家にとって選挙で選ばれなければただの人だから、どの層を取り込めば自分が当選し、党が政権を担えるかを考えるのは当然である。奴隷制で潤った寡頭勢力の代弁者だった民主党が、元奴隷のアフリカ系アメリカ人のために公民権法を通したのも、選挙に勝つための政治戦略だった。
クリントン夫妻とオバマの大票田は都市部人たち、大卒の医者や弁護士や経営者などの比較的富裕層だから、トランプはもっと貧しい層、プアホワイトやアフリカ系の票を民主党より多く獲得したということだろう。
その層は肥満率と喫煙率の高い地域でもある。そんなことを考えている時に、ある新聞記事が目に留まった。その記事を読んで、そうだったんだと腑に落ちた。記事はトランプ支持者の心性に目を向けたもので、トランプ政権の副大統領が16年に出した回顧録『ヒルビリー・エレジー』の邦訳の副題『アメリカの繁栄から取り残された白人たち』がトランプの熱烈な支持者だと指摘していた。入植した白人たちの歴史と米国に住む友人からもらった写真を手掛かりに、ヒルビリー(田舎者)たちの心性を理解しようとする分析は、なかなか説得力があった。
入植者は移動しながら生きていた先住民から広大な土地を奪い、追放と虐殺を繰り返し、19世紀末には先住民をほぼ全滅させた。道路を造り『文明』を押し付けた白人たちには、自然は脅威だった。そこでは自動車なしには生活できない。石油がなければ生き倒れるしかない。西海岸で富を蓄えた者もいるが、大半は外界の脅威の中で生活を続けた。貧富の格差は拡大し続けているが、富を奪ったのは移民ではない。トランプたち大金持ちだ。再分配政策の目くらましに、敵を作って対立を煽るやり方に乗せられたヒルビリーたちは『米国を再び偉大に』と絶叫するトランプに票を投じた。ヒルビリーの夢と現実、欲望と自尊心が、今の米国を理解する手がかりになる。そんな入植者たちの歴史である。
さらに友人から送られた写真からヒントを得たとも書いていた、サンフランシスコからコロラドまで3日間車で移動したときに撮ったものらしい。
『その間がもう、日本ではあり得ない景色ばかりなのだ。真っ平らな土地に一直線の道路。凹凸があるとすれば岩山。枯れ果てた土地を横断するので、車が故障すれば死がよぎる。そしてカラカラに乾いた何もないところに、突如町が現れる。町と言っても、ガソリンスタンドがあり、ダイナー(食堂)があり、申し訳程度の買い物ができるぐらいの場所だ。米国は国土の半分が誰も住まない地域とされ、人口密度は日本の10分の1だ。この地理的な特徴が人々の心性に何らかの影響を与えていても不思議ではない。
24年の選挙結果を見ると、トランプ支持者が最も多いのは白人の非大卒男性である。このヒルビリーを想像するきっかけが、こうした風景に隠れているかもしれない』」
民主党のビル・クリントンと黒人初のオバマに続いて、ヒラリー・クリントンが出馬した時、初の女性大統領誕生になりそうな勢いだった。しかし、共和党のトランプが勝った。得票数ではトランプよりヒラリーの方が多かったのだから、ある意味、民主党の戦略次第では結果も変わっていた可能性もある。
