つれづれに:小田原(2024年2月21日)

つれづれに

つれづれに:小田原

小島けい画

 伊豆大島で「椿」を見た後は、小田原に向かった。乗船時間は短い方が有難いので伊東に戻りたかったが、船の便が少ないので、大島の岡田港から熱海行きの船に乗った。そこから伊豆急で、小田原に着き、小田原城公園を訪ねた。そしてしばらく、街が一望できる場所に座ってぼんやりと眼下を眺めた。ぞれから、立原正秋の小説(↓)で主人公がしたように、寝転がって空を眺めた。

 主人公は高校生の時に少年院に送致されている。母親の再婚相手の子供を刺したためである。母親は請われて再婚し、主人公を連れて東京の成城で暮らし始めていた。父親になった人は親の電機会社を継いだ有能な経営者だった。年上の子供がいて、戸籍上の兄になった。祖父に甘やかされて育っていた。

少年院に送られたのは、兄を刺してしまったからである。ある日学校から帰ってきたとき、見てはならないものを目撃してしまった。兄が母親を凌辱(りょうじょく)しようとしていたのである。咄嗟(とっさ)に飛びかかった。もみ合っているうちに、兄が持ち出した刃物が兄の太腿(ふともも)に刺さってしまった。そして、主人公は何も語らないまま、少年院に入ったのである。

高校の物理の教師をしてながら詩を書いていた父親と、美しい母が好きだった。二人を尊敬し、理解していた。夢は、理工学部の建築学科を出て小さな建築事務所をひらき、生活に困らないだけの金をかせぎながら詩を書くことだった。母親の生家は小田原で蒲鉾(かまぼこ)屋をしており、時々泊りにでかけて小田原城の公園に行き、寝転がって空を眺めていた。

少年院を出た後、その小田原に行くつもりだったが、主人公を後継者にしたがる父親の強引さに敗けて兄を刺し、特別少年院に送致されることになった。

この小説を読んだのは、スポーツ好きの父親が讀賣新聞を取っていたからである。あまり新聞は読まないが、たまたま夕刊の連載小説を読んだ。理由はわからないが、すっと心に染みこんできた。他の作品も読みたくなって、元町の→「古本屋」に通った。気がついたら、自分の中に書きたい気持ちがあるのを意識し始めていた。フィクションだが、作品の中に出て来る場所に行ってみたい気持ちにもなっていた。小田原城の公園もその一つである。