つれづれに:HIV人工説(2024年10月4日)
つれづれに:HIV人工説
今回は、HIVの人工説である。HIVはアメリカが生物兵器を造る過程で、故意または偶発的に漏れたウィルスである可能性が高いという話である。エイズ関連の最後の3つ目の山の前半、☆社会問題として:アメリカ、の締め括(くく)りとなる。大きな問題だが、不確定な要素が多く、現実的に見て今となっては立証する術はない。しかし、抗HIV製剤(↑)が人類史上最も利益を生む薬となり、その周辺に蠢(うごめ)く人たちのやってきたことを考えると、心に留めておきたい問題の一つである。そうでないと、歴気から何も学ばないで終わってしまう。爛熟(らんじゅく)して滅亡期に入っている資本主義制度のど真ん中にいて、大量生産と大量消費を止められないのだから、せめて少しでも滅亡の時期を遅らせるように、歴史から学んで少しは流れに抗(あらが)ってみるのは悪くない。何もしないよりは、ましだろう。
HIVの人工説を言い出したのは、エイズ患者が出る前に、癌の治験に協力していたアメリカの医師(↑)たちである。つまり、政府やCDC(米国疾病予防センター、↓)などの遣り方を批判する内部告発だったわけである。既得権益にしがみつく集団は、その人たちを異端派として排除し続け、その内部告発をもみ消してしまった。
私がHIV人工説が荒唐無稽(こうとうむけい)ではないと思えたのは、アメリカのレイモンド・ダウニング医師の「アフリカ人のことはアフリカ人に聞け」という提言に従ってアフリカ人に耳を傾けた時である。ナイジェリア人が編集長(↓)になってからNew Africanでは、アメリカ人医師の内部告発を継続的に取り上げていた。治験に協力してエイズ患者と向き合った医師のデータに基づいた主張に、私は信憑(ぴょう)性を感じた。
アフリカ滞在が長いダウニング医師は、著書(↓)で臨床面や社会学的な面からだけではなく、実際にエイズ患者を取り上げた小説19冊を紹介している。ちょうど文学と医学の狭間からエイズを覗(のぞ)くというテーマで科学研究費を交付されていたので、何より貴重な資料となった。一番心を動かされたのは、病気を病因や症状だけからみるのではなく、社会や環境や歴史などから、より包括的に病気をみるべきだと力説しているところだった。
南アフリカの大統領タボ・ムベキ(↓)がエイズはHIVだけが原因とは言えないと主張したのと同じ路線である。欧米のメディアはムベキを非科学的な野蛮人と痛烈に批判し続けた。激増する感染者を前に世界保健機関(WTO)の例外条項を使ってコピー薬を製造し始めたとき、製薬会社はアメリカの副大統領を使って圧力をかけて、→「大統領選」まで左右した。2000年のダーバンの→「国際エイズ会議」でも、ムベキを槍玉にあげて相変わらず非科学的で頑固な野蛮人と批判し続けた。
次回から最後の山☆社会問題として:アフリカ、の連載に入る。たまたま修士論文に選んだ作家(↓)がアフリカ系アメリカ人で、必然的に奴隷貿易で連れて来られたアフリカに目を向けて、歴史を辿(たど)ることになったが、その成り行きがエイズを理解するのに役に立つことになるとは思ってもみなかった。この500年余りのアングロ・サクソン系の侵略の系譜の中で、侵略者側は自らを正当化するために白人優位・黒人蔑視を浸透させてきたが、意識の中でも現実の生活の中でも、その系譜を今一度問い直す機会の一つになれば嬉しい。
小島けい画