概要
2005年に始めたEMPも9年が過ぎ、退職を目前にした段階で取り組みの全容を取りまとめました。臨床・基礎の医師・教員。医師と英語科の教員が協力し、事務局、病院看護部も含めて全学部的な取り組みになったこと、平成30年度からはEMPが選択科目ながら4年生のクリニカルクラークシップの一環として取り入れられたこと、提携先の大学が増えたことなど、目に見える成果をまとめましたが、何より、入学時ほとんど英語がしゃべれなかった医学生が6年次のクリニカルクラークシップでアメリカのカリフォルニア大学のアーバイン校の救急で臨床実習を受けて、何気なくこなしている実態は、結果として、文部科学省が言い出したactve learningそのものだった、と思いながらまとめました。
Abstract
This is the nine years’ report of the EMP program. The Faculty of Medicine, University of Miyazaki and Prince of Songkla University (PSU) in Thailand, agreed on a student exchange program in March, 2005. In April, four 6th-year students attended a one-month clinical clerkship program at PSU. The EMP project was started as a preparatory short English training program for the clinical clerkship. EMP, an acronym for English for Medical Purposes, derive from ESP (English for Specific Purposes), a teaching method designed for motivating English learners by providing with clear goals. The program is conducted as an elective subject in the curriculum to improve the students’ English communicative skills for their overseas clinical training.
On December 14, 2005 the English Department presented a proposal for a program for 4th year and 5th year students to the faculty. The faculty approved our proposal and we conducted a short English program for students by inviting medical doctors from PSU and the University of California, Irvine (UCI), sponsored by the University. That was the beginning of the EMP program.
We have extended our program to ENP (English for Nursing Purposes) for nursing students, N_ENP (ENP for nurses in the University Hospital), and the O_EMP for office workers of the Faculty of Medicine, including the University Hospital. In 2009 we sent the first medical student to UCI. Since then seven students experienced their precious experiences at UCI. (In 2014 four more students will stay at UCI.)
We have made the best use of a grant (the “GP – Good Practice”) from the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology. “Developing medical workers with a multilateral perspective,” our EMP project, was selected as a “Supporting Program for Distinctive University Education 2008.”
Though much is to be done every year, we hope we’ll continue our efforts.
本文(写真作業中)
EMP9年:結果として、active learning
EMP9年
海外での臨床実習のための英語のプログラムEMPの9年間の報告です。
宮崎大学医学部は、2005年3月にタイのプリンス・オブ・ソンクラ大学(PSU-Prince of Songkla University)と学部間学生交換プログラムに関する覚え書きを締結し、4月に医学科6年生4名がクリニカル・クラークシップ(臨床参加型実習)・プログラム(4週間)に参加しました。EMPはその準備のためのプログラムです。
2005年度の歓迎パーティ、医学部学生食堂で
EMPとは、English for Medical Purposes のそれぞれの頭文字を取って作った略語で、医療のための英語という意味で、元々、目的を明確にして学習効果を高める狙いで考案された ESP (English for Specific Purposes) 教授法由来の言葉です。海外での臨床実習に参加するための英語運用力を高めるという明確な目標のもとに、医学部の正式なカリキュラムの中に位置づけられた選択科目として実施されて、9年が過ぎました。
参加した学生の意見を汲んで英語科にプログラムの要請があったとき、私は学部全体の総意と捉え、①医学科5年生だけでなく4年生も、②看護学科の学生も、③大学病院看護部の看護師も、④医学部事務局の事務員も、⑤大学院生も、と考えました。
現在⑤大学院生用のプログラムはまだ実施出来ていませんが、一年目から①医学科4・5年生、二年目から②看護学科3・4年生(現在は2・3年生)と③看護部の看護師、5年目から④事務局の事務員のプログラム(①EMP、②ENP-English for Nursing Purposes、③N_ENP、④O_EMP)を実施しています。
大学病院看護部ENPの授業で
現在、医学科はソンクラ大に8名、米国カリフォルニア大学アーバイン校(UCI-University of California, Irvine)の小児科に2名(来年度からは救急にも4名)、大学病院はソンクラ大病院に研修医を2名、看護学科はソンクラ大に4名(2週間)、看護部はソンクラ大病院に看護師を2名(1週間)の派遣・受け入れが可能です。
今回は医学科EMPの報告で、実施した内容については①始めた年2005年、②UCI 開始、③GP(文部科学省の交付金)、④The Language of Medicine(医学用語)に項目をわけて報告します。
EMPプログラムの実施
始めた年2005年
2005年4月に学生が参加したのは単位互換を伴う学生交換の制度に基づいたものです。双方の大学病院の医局で学生を受け入れて臨床実習を行ない、それぞれの大学で単位認定を行なう制度です。
帰国した学生からは「『タイでは医師といったら、なんでもできるもの』ソンクラでの実習はまさしく、この言葉につきます。医学教育のシステムは、医師が足りないという状況もあるため全てが実践的です。5年になると、病棟実習が開始され、担当患者の事はまず学生が問診し、所見をとり、検査、治療方針をたて、それをレジデントが毎朝のラウンドでチェックするといった状況です・・・・日本で卒後にやることをそのまま5年、レジデントがやっている。何もできない自分が非常に恥ずかしく思えました。」(日吉優)、「最も印象に残っているのは、タイと日本の医学教育の違いを体験できたことです。特に、最後の一週間に訪れた、地域の診療所での医師達の姿です。その診療所では、GP(General Practitioner:総合診察医)とよばれる医師達が、地域の患者の診療の中心を担っており、一人の医師が内科的疾患から、外科、産科など、あらゆる疾患を診ていました。」(今吉鈴子)、「単語は知っているが、聞けない、喋れない。日本人の特徴なのだろうか、医学についても同じではないか、ソンクラでそんな事を考えた。見て、聞いて、考える学問としての医学、大容量の短期記憶と反射神経で乗り切る試験勉強としての医学。そして私達は後者に溺れる。制度も環境も大きく異なり一概には言えないが、タイの学生達は少なくとも私達より、『医学』を『人』を通して学んでいた。1ヶ月ソンクラで過ごした事は何事にも変えられない貴重な体験で、今後の人生の大きな糧となると信じている。」(西垣啓介)、「私にとってはこれまでに経験したことを生かせる良い機会であったと同時に、実習を通じてタイとう国の医療サービスについて色々学ぶこともでき、参加して本当に良かったと思っています。」(山本茜)1など貴重な体験をしたという思いとともに、実際にはなかなか思うようには英語が使えなかったという意見も強かったそうで、医学部として英語科に何か準備のための英語プログラムを、という要請があったのは夏前です。(河南洋医学部長が研究室に訪ねて来られて、正式な要請がありました。)
タイのプリンス・オブ・ソンクラ大で
早速準備に取りかかり、次年度のソンクラ大での臨床実習に向けての英語のプログラムと経費の確保策を考えると同時に、次年度以降のプログラムについても考えました。初年度のプログラムの具体案を11月の半ばにまとめ、12月の教授会に、英語分野が「4・5年生の英語研修プログラムーEMP (English for Medical Purposes) 講座」を実施することを提案して、承認されました。
[実施計画・方法]は、英語分野の4人が中心となり、17年度学長裁量の「教育戦略経費」を利用してソンクラ大学とアーバイン校から医学教員を招いて(ソンクラ大学との窓口役は、応用生理学分野の丸山教授、アーバイン校の窓口役は産婦人科学分野池ノ上教授)、英語の短期研修を行なう、でした。
[期待される成果]は、①4・5年次に明確な目標の下でこのプログラムが実施出来れば、海外での貴重な研修の場で、学生自身がより多くのものを吸収することが期待出来る、②プログラムを正規のカリキュラム内に位置づけて、入学から卒業までの一貫性を持つ制度が定着すれば、下級生の指針や励みにもなり、1・2年次での英語学習にも大きな成果が期待出来る、③卒後研修との連携が可能になれば、研修生確保の一助にもなり得る、④プログラムを充実させて実績を積めば、学外資金の獲得も可能になる、でした。2
12月に助教授の横山がソンクラ大に視察に行きました。3
ソンクラ訪問(右端が横山さん)
17年度学長裁量の「教育戦略経費」は、「将来の職業と直結した英語教育プログラムの構築に取り組む」ことを骨子にした「プロジェクト名 英語が使える医療人の育成プログラム」で申請したもので、240万円が交付されました。
2月17日から3月11日まで(1期が2月17日から23日まで、2期が3月7日から11日まで)、5年生6名、4年生9名(途中参加1名、辞退2名)がEMPに参加し、1期はソンクラ大からのDr. Teerha PiratvisuthとDr. Sakon Singhaのセッションを中心に、2期はカリフォルニア大アーバイン校からのDr. Feizal Waffarnのセッションを中心に実施されました。以下がその概要です。4
2006年02月17日 EMP講座始まる
17日からEMP講座が始まりました。5年生5人が参加、月曜日からのケース・スタディの前に、自己紹介なども含めた会話の練習と医学用語の発音の練習などをしました。横山さんが撮影の練習をして、録画した映像をハイビジョン画面で確認しました。ホワイトさんも会話に加わり、質問や解説などをしました。
2006年02月19日 Dr Teerha、Dr. Sakon、宮崎に到着。
Dr Teerha、Dr. Sakonが宮崎空港に到着されました。横山助教授、丸山教授と玉田が出迎え、宿泊先のパームビーチホテルに案内しました。昼食をしながら、打ち合わせを行ないました。
旧パームビーチホテルで(左から丸山、ティーラ、サンコン、横山さん)
2006年02月20日 EMP講座2日目
講師2名によるケーススタディに4・5年生とタイの留学生3名が参加しました。以下、受講者からの報告です。
「本日、ティラー先生によるケーススタディが行なわれました。席の配置は、議論のしやすさを考慮して半円形にし、前列に5年生とタイからの留学生とサコン先生が座り、後列に4年生が座りました。
症例は、数週間前の交通事故後から黄疸を呈した44歳男性でした。尋ねるべき情報は? ラボデータの解釈は? 鑑別診断は? まず行なうべき検査は? といった形で話が進み、最後に黄疸の鑑別のフローチャートが提示されました。答えは、交通事故後に投与された抗生剤による薬剤性肝炎でした。
5年生には4月にタイでクリニカル・クラークシップを行なう学生も含まれており、この機会を最大限に利用するべく、ふだんの講義のときよりも積極的に議論していました。あとから、タイの学生から聞いたのですが、タイではスモールグループでのケーススタディでも皆あまり発言しないらしく、日本の学生は積極的だと言っていました。しかしこの1週間タイの学生とつきあった感想では、日本の学生よりも何倍も勉強しているようで、我々は見習わなければならないと思います。
ティラー先生の議論は非常に論理的であり、内容だけでなく、思考の仕方の勉強にもなりました。
午後からは第2内科でベッドサイドラーニングがあり、タイの先生方、2内科の先生方、タイの学生3人、5年生3人が参加しました。議論も白熱し、我々学生も勉強になりました。(M5 杉田 )」
* 昼食会
Dr Teerha、Dr. Sakonを迎えての昼食会が本学でありました。住吉学長、名和副学長、河南学部長などを囲んで和やかに歓談しながらの食事となりました。
* 歓迎パーティ
ソンクラからの5人を迎えて、医学部挙げての歓迎パーティが催され、約50名の参加がありました。
初めての試みでもありますので、みんなが試行錯誤しながらやっていますが、Dr. Teerha の挨拶の中にあったように次の世代のためになれば幸いです。名和副学長の挨拶にもありましたが、農学部とも協定が結ばれるようですので、ますます実質的な往き来が実現しそうです。宮崎大学とソンクラ大学に乾杯!
医学部での歓迎パーティ
2006年02月21日 EMP講座3日目
5年生とタイの留学生は Dr Teerha のケーススタディに、4年生は Dr. Sakon の講義に参加しました。
2006年02月22日 EMP講座4日目
4・5年生と留学生が、Dr. Sakonの講義を受けました。
2006年02月23日 EMP講座5日目
4年生はホワイトさんが、5年生はゲストさんが担当してそれぞれ、レビューと会話をやりました。4年生は医学用語の発音練習も少しだけ。
EMP5年生のクラス
2006年3月7日 EMP講座第二部開始、講師 Dr. Feizal Waffarnが宮崎に到着。
7日にEMP講座を再開しました。5年生はゲストさんが担当、4年生はホワイトさんが担当して、8日の新生児室でのセッションのPreviewを行ないました。
午後には、Dr. Waffarnが宮崎空港に到着されました。横山助教授と玉田が出迎え、学部長室に直行、今回持参された既にサインを終えた学部間の協定書を確認しました。今回のEMP講座は、学部間提携校としての初めての試みとなります。
そのあと、英語のスタッフ4人と明日のセッションの打ち合わせを行ないました。
2006年3月8日 EMP講座第二部2日目
Dr. Waffarnによる新生児室でのセッションに4年生、5年生が分かれて参加しました。4年生がやっているときは5年生にゲストさんがPreviewを、5年生がやっているときは4年生にホワイトさんがReviewを行ないました。英語科の4人と熊本大と県立看護大の見学者もセッションに加わりました。
写真:Dr. Waffarnの授業
* 昼食会
河南学部長主催の Dr. Waffarnと学生の昼食会が医学部でありました。菅沼副学部長、池ノ上教授、鮫島助教授(産婦人科)、英語科のスタッフ4人も加わりました。
* 昼食会のあと、Dr. Waffarnと英語科のスタッフ4人とで、今日のセッションのフィードバックと明日の講義の打ち合わせを行ないました。
* 学長・副学長へ表敬訪問
午後、Dr. Waffarnが住吉学長・名和副学長に表敬訪問をされました。河南学部長と玉田が案内しました。協定書の確認のあと、今後の交流の展望についての意見交換を行ないました。
2006年3月9日 EMP講座第二部3日目
講義棟301教室で、4年生、5年生が分かれてDr. Waffarnの参加型の講義に参加しました。4年生がやっているときは5年生にゲストさんがPreviewを、午後から4年生にホワイトさんがReviewを行ないました。県立看護大の見学者も加わりました。
2006年3月10日 EMP講座第二部4日目
昨日にひき続き、同じ形式で参加型の講義が行われ、産婦人科の池ノ上教授も参加されました。今日も、県立看護大から2名が見学に来られました。
2006年03月11日 EMP講座第二部5日目
4年生はホワイトさんが、5年生はゲストさんが担当してそれぞれ、レビューをやりました。
急遽プログラムを考えて実施した側としては、当初の「取り敢えず今年は先ずやってみる」という目標が果たせただけでなく、①英語分野、応用生理学分野、産婦人科学分野、総務課など、医学科全体が相互協力してプログラムが実施できた、②目的を持って語学を学ぶことの大切さを改めて実感した、③招聘講師を招いて行なったセッションから今後の講座の内容と展開のやり方についての具体的な手がかりが得られた、④学部間協定を締結したアーバイン校との学生間交流が開始出来る可能性が高まった、などが主な成果としてあげられます。今回のプログラム実施を足掛かりに病院も含めた医学部全体の取り組みに発展させようという流れになったのは最大の成果で。その取り組みの総称にEMPを使うことになりました。EMPは医学部全体の取り組みの総称です。
次年度以降のプログラムについては菅沼副学部長(教務委員長、現学長)と、医学科は4・5年生、看護学科は3・4年生の選択科目としてカリキュラムの中に組み入れました。医学科は4年生の前期しか通常の時間割には組み込めませんでしたが、看護学科は通常の時間割内に収まりました。(医学科4・5年生後期は春休み、5年生前期は夏休みに実施)2014年度入学生から、選択科目ながらクリニカルクラークシップの時間割の枠内で授業をすることになっています。学部全体がEMPを評価している結果だと思います。
4月に玉田と横山助教授がソンクラ大病院での臨床実習の見学に行きました。
2008年度に締結された協定に基づいてUCIでの実習が始まったのは2009年度からで、初年度は1名(成田健太郎くん)が参加しました。産婦人科教授の池ノ上さんとUCIのFeizal Waffarn教授(Chairman of Department of Pediatrics)との交友関係と個人的な尽力に負うところが大きく、2005年8月に本学に来訪中に英語科の部屋でWaffarn教授と英語科スタッフとでざっくばらんに話をしたことで急速に話が進みました。「日本の学生は英語に自信のない学生が多いので言葉に自信を持つ学生を送ってください。医学部プロパーで英語教員がいるなんてすばらしい環境ですね。一緒に何かやりませんか」と話が具体化して行きました。
Dr. Waffarn:NICU
2008年12月に横山さんがUCIを訪問して、①Clinical Skills CenterでのOSCE (surgery, clinical foundation, family medicine)見学、②オスロからの留学生へのインタビュー、③Family Health Center (Santa Ana)の見学、④Waffarn教授、Larry Goldとの打ち合わせ、⑤Penny Murata(臨床実習責任者)との打ち合わせ、などを実施しました。Dr. Penny Murataとのミーティングの内容です。
1.カリキュラムについて
・UCIでの研修でローテーションの一つに小児科を希望する場合。ゴール、目標、臨床での問題などCouncil on Medical Student Education in Pediatrics (COMSEP)によって全米で統一のカリキュラムがあるのでそれに基づいている。
2.クラークシップについて
・Long BeachにあるMiller Children’s Hospitalでの入院患者臨床実習:4週間
・UCI付属の病院またはMiller Children’s Hospital付属の小児科officeでの外来患者臨床実習:4週間
・UCI Medical CenterまたはMiller Children’s Hospitalでの新生児:4週間の外来患者ローテーションのうち1週間
写真:UCI Medical Center
3.カンファレンスについて
・週に1度の学生カンファレンス、週に1度のDepartment of Pediatrics Grand Rounds、昼休み時間のDepartment of Pediatrics Residency noon conferenceがある。
4.アサインメント(課題)について
・入院患者臨床実習期間中にpatient historyとphysical reports(3本)
・外来患者ローテーション期間中にpatient note(1本)
・文献検索
・clinical skillsのチェックリスト
・patient log
・人文学あるいは児童の権利擁護に関するプレゼン(内省的なもの)
・Problem-based learning (PBL)での症例プレゼンテーション
5.評価について
・faculty residentsとsenior residents(2,3年目の小児科レジデント)からのclinical performanceについての評価、historyおよびphysical report、外来患者の記録、PBLの症例、医師国家試験官の試験
6.その他(ロジスティクス)
・オスロの学生のように長期(4ヶ月)の場合にはアパートを借りることも考えられるが、本学の場合は4週間なのでホテルが妥当
・自家用車(レンタカー)は必須
宿泊先は費用面でホームステイの可能性を探ったが受入れ家庭が見つからず、今後も可能性は低い。旅費、滞在費、レンタカー代金などをあわせて為替レートにもよるが1ヶ月でおよそ60~70万円の負担が生じる。5
2009年1月23日にUCIでの実習に耐える語学力を確認するために、産婦人科のカンファレンスルームにて、インターネットテレビ会議システムを利用したインタビューがWaffarn教授とDr. Murataにより実施されました。
経済的な問題も含めて難題もありましたが、何とか成田くんの参加が実現しました。
写真:成田
EMPを始めてから間もなく、執行部や事務長からの要請もあって、GPを申請して予算をもらいました。平成20年度~平成22年度「質の高い大学教育推進プログラム」(教育GP)、題目:「複視眼的視野を持つ国際医療人の育成」(61,669,000円)です。ヒアリングでは「予算をもらってもすることが増えるだけで、実際に招待した人たちの接待も自分持ちですし、予算をもらっても痛し、痒しですね。」と言いましたが、本音です。単科大学の時に比べ、看護学科が出来て授業が増え、無理矢理の統合で共通教育の授業が増えて、その上に、選択科目とは言え、医学科4・5年生、看護学科2・3年生、看護部看護師、事務部事務員のEMP/ENP授業とコーディネートが加わったわけですから、毎年毎年、やっぱり大変です。しかし、折角もらった予算ですし、目一杯有効に使いました。看護師や事務員、看護学科の教員や基礎と臨床の医師にもソンクラ大とアーバイン校に行って、自分の目で見てもらいました。予算を使って報告書や留学記などの冊子6もたくさん作りました。以降も毎年、授業報告書や留学記も残すようにしています。ホームページ7も作り、学生の医学図書も充実させ、EMP専用の二部屋の映像機器も補充させました。
- The Language of Medicine(医学用語)
医学英語に困らなくなったのは、The Language of Medicine(SAUMNDERS ELSEVIER, 8th Edition)という分厚い医学用語の本を使い始めてからです。アーバイン1号の成田くんたちの学年です。4年生のEMPが始まってもあまりにも積極性に欠ける風にみえたので、このままやとあかんやろとはっぱをかけました。慶應大出身の石井信之くんが具体的に言ってもらわないとわかりませんと反論しましたので、横山さんがファイルを作って足りない点をたくさん指摘しました。その時点で石井くんにギアが入ってしまって、みんなをひっぱって、一年ほどかけてThe Language of Medicineの約2200語の医学用語の定義と名前の試験を繰り返して全部覚えたようです。五年生になってからは内科の医者を引っ張って来て、毎週英語でケーススタディをやってもらっていました。その成果もあって卒業時には全員が成績上位に並んでいました。林直子さんが「一緒に励まし合うEMPの仲間がいたから、何とか三年間、続けてこられました。」と書いていましたが、うまく協力し合えた学年だったと思います。
The Language of Medicineは自習用のすぐれたテキストで、22章からなり、4章までが基本構造や接尾語、接頭語などで、それ以降は消化器系などの系からなっています。各章の最初に説明と用例があり、次の解説と練習問題でその用例に慣れ、最後に発音記号付きの必須用語が並べてあります。
そのThe Language of MedicineをGPの予算を使ってデータ化し、音声をリンクさせたファイルを5年かかって作りました。EMPで最初にその資料を配っています。学生はグループにわかれて、試験を繰り返しながら覚えています。講師(医者か研究者)の専門に合わせて、事前に用語の確認も一緒にやっています。アメリカのテレビドラマERを使った産科のテーマだとChapter 8 Female Reproductive System、脳外科の水頭症や脳腫瘍の症例研究だとChapter 10 Nervous System、眼科だとChapter 17 Sense Organs: The Eye and the Earといった具合です。
写真:The Language of Medicine(8版)
現在は一年生の授業でも横山さん、南部さんと協力して三分の一程度、4章までとChapter 5 Digestive System とChapter 15 Musculoskeletal Systemを全員でやっています。必須医学用語は750語程度です。
The Language of Medicineのおかげで、最近はソンクラやアーバインで医学用語に困るということはなくなりました。
結果として、active learning
2005年に医学部長の河南さんからの依頼でEMPを始めたときは、取り敢えず始めるだけでその後の展望が持てたわけではありませんでしたが、予想以上の成果があったように思います。文部科学省はグローバルに続いてアクティヴ・ラーニングをキーワードにしているみたいですが、このEMPプログラムを通して感じるのは、海外の臨床実習で実際に使うためにという目標が定まると自分から進んでやるし、英語も使えるようになるし、結果的として、EMPはまさにアクティヴ・ラーニングやったなあ、です。学部全体としても学生のために協力し合えるのは、有り難いことです。
最近PSUで実習をする学生の英語力がすごいのでソンクラの学生も大いに刺激を受けています、という声も聞きますし、6年生の報告会でも、もっと医学用語をしておけばよかった、もっと会話の練習をしておけばよかったという感想がなくなって、タイでは急性疾患が多く、日本では慢性疾患が多い、などの内容的なことに主眼が置かれるようになっています。その点では、実習で自信を持って英語が使えるようにという目的はある程度果たせているのではないかと思えます。
ただ、いい面ばかりではありません。始めた当初はみんなで創り上げるという気持ちもあって学生もかかわりが濃かったと思いますが、慣れて来ると、制度があって当たり前というふうに考える学生も出てきているように思います。「今までEMPの授業のことを、義務のように受けなければいけないもの、と思っていたが、今回は受けたいから行く、という感じだった。」という5年生の感想を見たりすると、少しかなしくなります。今年卒業した学年はなかなか大変でした。2年次では、期間も最初から決めているのに、試験の間近には半数以上が欠席し、アンケートにそんな時間割を組むとはと書かれていました。結構欠席者や遅刻する人もいて、とても自主的に参加しているとは思えませんでした。連絡網もあるわけですから、気持ちがあればメールで欠席の連絡くらいは出来るのにと思いました。卒業まで続けたのはわずかに4名でした。こんな人たちが医者になるのかと思うと暗澹たる気持ちになったこともあります。
一昨年卒業した学年が2年次からEMPを始めた最初の学年ですが、4年生になったとき5名しかメンバーが残りませんでした。オリエンテーションでは20名ほどの希望者がいましたが、実際に始めたのは11名で、留年やら辞退やらで、最終的には5名になりました。ソンクラに派遣する8名枠が埋まらずに3名を公募で選考して派遣を決めました。8名枠を満たせない理由は色々と考えられますが、専門科目の学習やサークル活動など一番忙しい学年で英語の優先順位をどれだけ保てるかだと思います。実際には2年間の活動を続けるのは難しいようです。
もちろん、ソンクラにしろ、アーバインにしろ、行った人は例外なくよかったと言っています。ソンクラの医学科の学生は国の事情もあって、5年生で研修医、6年生でレジデントと同じような仕事を任されますから、向こうに行って教わることも多く、EMPの学生にとってはまたとないいい機会だと思います。
写真:報告書
一人一人と向き合うには手間と時間がかかりますし、大変なこともたくさんありますが、何とか工夫しながら続けられたらと思います。違う文化の中で言葉を自由に使って貴重な体験が出来る機会を確保するのは大事なことですし、貴重な経験をしてすてきな医者になってくれれば、嬉しい限りです。
注
- 4名の学生には卒業前に感想や報告を書いてもらい、玉田吉行、横山彰三、Michael Guest、Richard White「2005年度EMP報告書・ソンクラ報告記」(https://kojimakei.jp/tamada/works/EMP/05ソンクラ報告記.pdf、2006年3月29日、1~3頁、全4頁)に入れました。また玉田吉行、横山彰三、Michael Guest、Richard White、南部みゆき「ソンクラ大学留学記・報告記(1)2005年度~2008年度」(https://kojimakei.jp/tamada/works/EMP/08ソンクラ留学・報告記Ⅰ.pdf、2009年3月29日、4~5頁、全102頁)にも収載しています。
- 玉田吉行、横山彰三、Michael Guest、Richard White「2005年度EMP講座報告書」(https://kojimakei.jp/tamada/works/EMP/05EMP報告書.pdf、2006年3月29日、3頁、全33頁)
- 横山彰三「ソンクラ大視察」(同上報告書28頁)
4.「第一回 EMP 講座詳細」(同上報告書12~17頁)
- 横山彰三「UCIとの学生交流開始について」「留学記・報告記(2)-PSU・UCI」(https://kojimakei.jp/tamada/works/EMP/09留学期・報告記II.pdf、2010年3月、2~3頁、全85頁)
- EMP報告書と留学記などはブログにまとめて、クリックすればPDFファイルが読めるようにしてあります。→玉田吉行の「EMP報告書・留学記」http://kojimakei.jp/wordpress/2014/11/20/%E7%8E%89%E7%94%B0%E5%90%89%E8%A1%8C%E3%81%AE%E3%80%8Cemp%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%E3%83%BB%E7%95%99%E5%AD%A6%E8%A8%98%E3%80%8D/
7.(教育GP)専用のホームページ→「複視眼的視野を持つ国際的医療人の育成」http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/english/index.html、英語科のホームページにはソンクラ大、アーバイン大の実習時に送られて来たメッセージも載せてあります。→「songkla diary・Irvine diary – ソンクラ・アーバイン通信」http://kojimakei.jp/english/scientific/d_songkla/
執筆年
2014年
収録・公開
「ESPの研究と実践」第11号57-67ペイジ
写真:ESP11号
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